第42話

「そういえば、清香姉…じゃなくて、清香先生…」


律儀に呼び直している雅耶に、清香はふふ…と笑った。


「なあに?」

「冬樹って覚えてる?ウチの隣に住んでた…」

「ふゆき…くん…?隣って…野崎さん?」

「そうそう、そこの双子の…」


考える様な素振りをしていた清香だったが、そこまで聞いて思い出したようでポンッ…と、手を打った。


「ああ。覚えてるわよ。何度か雅耶と一緒に遊びに来てた可愛い双子ちゃんでしょ?でも、野崎さんの家…大変だったのよね…。その子一人だけ残されちゃったんだっけ…?」

「うん。あいつさ、あの後…親戚の家に引き取られたんだ…」


雅耶は昔を思い出しているのか、少し辛そうな顔をした。


「それからずっと会ってなかったんだけど、あいつ…こっち戻って来たみたいで…。偶然、あいつもこの学校だったんだ」

「そうなんだ?すごい偶然だね」


懐かしい友人の話をしているわりに、雅耶が浮かない顔をしているので、清香は不思議そうに話の続きに耳を傾けていた。


「うん。それもさ、同じクラスだったんだよ。本当スゴイ偶然でしょ?」

「へぇー。この学校クラス多いのに、それは凄いね」


「うん」…と笑顔を見せながらも、それはどこか元気のないもので。

清香は疑問に思い、それを口に出した。


「でも、何だか雅耶は複雑そうだね。…会えて嬉しくなかったの?」


そう、指摘され。

雅耶は大きく目を見開いた。


「勿論、嬉しいに決まってるよっ!ずっと会いたいと思ってたんだっ。だから俺、嬉しくて声掛けたんだけど…。でも…あいつは、そうじゃなかったのかもって…」


その雅耶の様子を見て、何かあったことだけは清香にも解った。


「やっぱ、昔とは違うのかな…?」


遠い目をして窓の外に視線を流してしまった雅耶に、清香はフッ…と笑って声を掛けた。


「そっか…。確かに変わってしまった部分は、お互いにあるのかも知れないよね」


そう言うと、雅耶は視線を清香に戻した。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る