第41話

雅耶は、若干校舎の中を迷いながらも何とか保健室の前まで辿り着くと、緊張気味にコンコン…と、控えめにノックをした。

すると、「はーい、どうぞ」と知った声が返ってきたので、ホッと肩の力を抜くと、ゆっくりと扉を開けた。


「失礼しまーす。…清香姉きよかねぇ?」

「あら?雅耶じゃないっ!」


机で何か作業をしていた手を止めると、白衣を身に纏った女性が顔を上げて笑みを浮かべた。


この学校の保健医である浅木あさぎ清香は、雅耶の家の近所に住んでいて、小さな頃からよく遊んでもらっていた雅耶のお姉さん的存在の人物だ。


「今は誰もいないから大丈夫よ。入りなさいよ」

「はーい、失礼しまーす」


雅耶はそのまま保健室へと入室した。



「とうとうマー坊も高校生かー。改めて入学おめでとうね!」

「ちょっと、清香姉…。その『マー坊』はやめてよ…」


雅耶は照れくさそうに笑みを浮かべると「でも、ありがとう」と言った。


「すっかり大きくなっちゃって…。そんなに、上から見下ろされたら何だか調子狂っちゃうわね」


20センチ以上も差がある雅耶を見上げて、清香は優しく笑った。


「で…何組になったの?学校はどう?男子校だとまた全然雰囲気違うでしょう?友達は出来そう?」


矢継ぎ早に出てくる質問に雅耶は苦笑すると、


「確かに男ばっかりで不思議な感じはするかな…。でも、すぐ慣れると思うよ。俺のクラスはA組。この学校には何人か中学一緒だった奴らもいるし気持ち楽かな。仲良い奴も丁度おんなじクラスになって、ラッキーだなって言ってたんだ」


そう律儀に答えた。


「そうなんだ?それは心強いね。いいなぁー、これから楽しい高校生活が待ってるってことかぁ」


清香は、伸びをしながら笑って言った。


「うん。清香姉にお世話になることもあるかも知れないけど、これからよろしくね!」

「馬鹿ね。世話にならない方が良いに決まってるでしょ?保健室なんだから。それに、ココでは『先生』って呼ばなくちゃダメよっ」


そう言って、人差し指をピッ…っと立てた。


「あー…そうだった。『浅木先生』?」

「『清香先生』でもいいわよ。みんな結構そう呼んでくれてるし。こう見えて、私はこの男子校のマドンナ的存在なのよ♪」


そう笑った清香に。


「へぇー…」


と、相槌を打ちながらも、


(そういうの、自分で言っちゃダメっしょ…)


…と、頭の中に浮かんだツッコミは、自分の内に留めておくことにした。


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