第34話

その時。


「コラーッ!お前達!こんな所で何してるっ!!」


突然、パトロール中の警官が騒ぎを聞きつけたのかやって来た。


「ゲッ!おまわり!?」

「やべっ!!逃げろッ」


慌てて倒れている仲間を揺さぶり起こすと、男達はバタバタと逃げ出した。

そんな中、呆然と立ち尽くしていた冬樹は、


「こっちだっ」


突然、強引に腕を掴まれると、


「…えっ?」


そのまま手を引かれて、走り出した。

警官もいる手前、この場を離れた方が良いに決まっているのだが。


(ちょっ…ちょっと待て!!なんなんだ、この展開は…)


しっかりと握られた大きな手。

その手に引かれるままに全力疾走で、街中を駆け抜けてゆく。


(この人は、いったい…?)


誰なのだろう。


(カオがよく見えない…)


前を駆けるその後ろ姿は、自分の記憶にはないものだ。

だが、土地勘のある人物なのだろう。

的確に、迷うことなく何処かを目指しているようだった。



「ここまで来れば大丈夫だな」


駅前通りを抜け、静かな小さな公園へと辿り着くと、そこでやっと繋いだ手を解放された。

訳の分からぬまま、手を引かれるまま、必死に走って来たものの、冬樹はすっかり息が上がってしまっていた。


(つっ…疲れた…。この人、かなり鍛えてるな…)


はぁはぁ…と、肩で息をしつつも何とか呼吸を整える。


(あれだけ走って、全然呼吸が乱れていない…)


その目の前の人物は、平然とした様子で周囲を見渡している。

背が高い分、足の長さの違いもあるとは思うが。


(それにしても、この人…。何でオレのことを…?)


さっき、確かに呼ばれた名前…。

思いのほか緊張する。


(でも、まずは顔を見ないことには…)


そう思っていた矢先。


「冬樹…」


そう言って、目の前の人物は振り返った。



「お前、野崎冬樹だよな?」



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