第32話

明らかにイジメの現場。


冬樹は、そういったものが大嫌いだった。

冬樹自身が小学校時代、よくいじめられる対象にされていたから…と、いうのもある。


家族を失ったこと…それは、冬樹のせいでも何でもなかったが、子供達の間でのからかわれる要素としては、打って付けだった。

からかいがエスカレートしてくるとイジメになっていく。

そして、そういった類の者達は必ずしも一人ではなく、いつだって数人で連れ立ってやってくるのだ。


(3対1…か。卑怯な連中だ…)


思わず足を止めて眺めてしまっていた冬樹だったが、ひとりの男がお金を巻き上げようと財布を奪った時点で行動に出ていた。



「テメェ…やる気か?」


思わぬ隙に逆に財布を取られて、男は悔しそうに身体を震わせた。

何より、その相手が自分より小さく線の細い少年だったのが、余計に男の気持ちを逆なでした。

だが、主犯格らしい男は腕に自信は無いのか、ただ冬樹を睨みつけるだけだった。


「何だァてめぇはッ!!」


思わぬ邪魔が入って、残りの二人が前に出てくる。

その際に、バッグを奪われた眼鏡の男は一人のゴツイ男に押し退けられ、壁にぶつかると地に倒れ込んだ。


「このチビ!俺達にタテつく気かァ?」

「ハハハッやめとけ、やめとけッ。坊ちゃんには百万年はえーぜッ」


無言でその場に立っている冬樹を『強敵』では無いと判断したのか、男達は馬鹿にした様子で冬樹に詰め寄った。


「今なら間に合うぜ。さっさとその金、こっちによこしなッ」


凄んで詰め寄られても、冬樹は冷静だった。

三人の男達の後ろで、解放された眼鏡の男がそろりと立ち上がり、今にも逃げようとしてこちらを伺っている。


「………」


冬樹はその一瞬を狙って、詰め寄ってくる男達の僅かな間を通すように素早くその男に財布を放り投げた。


「あっ…」


咄嗟にそれを受け取った眼鏡の男は、その瞬間…また男達の視線が自分へと戻り、青ざめた様子で固まってしまうが、


(行きなよっ)


冬樹が声に出さず、手振りで合図すると慌てて表通りへと駆け出した。


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