第29話


アパートの一室。



どれだけ、そうしていたんだろう。


気が付くと、部屋の中はすっかり暗くなっていて、かなりの時間が経過していたことを知る。


(気がゆるんでる証拠だ…)


冬樹は、立ち上がるとゆっくりと洗面台の前へと向かった。

鏡に映る自分の顔を見て、思わず溜息が出る。


「ひどい顔…。最悪だな…」


その瞳は真っ赤で、目元もすっかり腫れ上がっている。


(こんなに泣くなんて…)


もう、ここ何年も泣いていなかった気がする。

今までは、気を張っていたから…?


冬樹は蛇口をひねると、冷たい水で顔を洗った。


(ダメだよな、ここで気を抜いてちゃ…)


気を引き締めるつもりで暫く冷たい水を顔にかけ続けた。




オレは『冬樹』だ。しっかりしろ!!


心の中で自分に喝を入れると、頬をパンっ…と、両手で叩いて気合を入れた。

気持ち頭もスッキリして、ひとつ大きく深呼吸をすると、タオルで顔を拭いた。


高校に入ったら…。

きっと、今までよりも、もっと大変だろうな。


(出席日数もあるし…)


実は、中学ではかなりサボっていた冬樹だった。

それに、これからは家のこともしっかり自分でやらなくてはいけないのだ。


(バイトもしたいな…)


出来るなら、伯父さんからの仕送りを使わないでいたい。

でも、今の自分にそれだけの力は無いから…。

少しでも…、自分で使う分くらいは、自分で何とかしたい。


そう、思う冬樹だった。



明日から探してみるか…。




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