第28話

久し振りに会った冬樹は、前よりも少し痩せた気がした。

雨の中、傘も差さずにただ無言で立ち尽くしている姿は、妙に痛々しくて。


「とにかくウチに入れよっ。カゼひくー…」


そう言って雅耶が冬樹の腕を取り、家へと招き入れようとしたその時、その言葉を遮るように冬樹が口を開いた。


「まさや…」


それは、とても小さな声で。

ただ自分の名前を呼んだだけだったのだが、雅耶はその一言でハッとして、動きを止めてしまった。


(泣いてる…?ふゆき…)


今までずっと、泣かなかった冬樹が。

泣いている…。

冬樹の頬を濡らしているものが雨なのか涙なのかは既に区別もつかない。

だが、声も上げずただ静かに涙を零しているのだけは分かった。


「ふゆき…」


当たり前だ。

悲しくない筈がないんだ…。


「まさ…や…」


泣きたいのをずっと…我慢していたに違いない。


頼る者もなく。

ひとりで。


冬樹は俯いて、雅耶の肩口に額を預けると、声を殺して泣いた。

その小さく震える細い肩を、雅耶はそっと抱きしめてあげることしか出来なかった。

一緒に涙を零しながら。


そして、その次の日。

もう冬樹はいなかった。





その雨の日以来、冬樹には会っていない。

冬樹は、何も言わずに行ってしまった。


「でも、あれは…別れを言いに来たんだろうな…」


雨の中佇んでいたその友人の姿を思い出して、ひとつ溜息をついた。

窓を開けたまま、窓枠に頬杖をついて外を眺めていた雅耶は、既に日が落ちて暗くなってしまった夜空を見上げた。



冬樹…。

また、どこかで会えるだろうか。




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