第27話

その時。

雅耶は、ハッとした。


(えっ…?)


突然脳裏に、昼間駅で見掛けた少年の姿が過ぎったのだ。

雅耶は、信じられないという顔で自分の口元を押さえた。


今、解った。

駅前で見た、あいつ…。


「気のせいなんかじゃー…なかったんだ…」


俺があいつを分からないなんて。


「ふゆ…き…」


写真の中、一緒に笑い合っている冬樹の顔を指で軽く触れた。


(間違いない。…あれは、冬樹だ…)


先程の少年と、思い出の中の冬樹の表情が重なる。

雅耶は、段ボール箱の中身を広げたままで、暫く呆然としていた。


(もしかして、この町に帰ってきたのか?)


雅耶は、思い立ったように立ち上がると自室の窓を開けた。

丁度そこは冬樹の家に面している窓で、二階のベランダや庭が良く見えるのだ。

だが…。


(家には、戻ってなさそうだな…)


その様子は、ここ数年ずっと変わらない。

閉め切った雨戸。

伸び放題の草木。


変わらない…。

もう、あれから何年が過ぎたのだろう。

夏樹やおじさんとおばさんが亡くなってから…。





一人残された冬樹は、親戚の家へ行くことになった。


ザアザアと雨が降りしきる日。

玄関を開けると冬樹がずぶ濡れで立っていた。


「ふゆきっ!?どうしたんだよっ、こんなにびしょぬれで!」


慌てて掴んだその細い肩は、ずっと雨に打たれていたのか、びしょびしょに濡れて冷えきっていた。

冬樹と面と向かって会えたのは事故のあった空手の時以来で、十数日が経過していた。

ちょこちょこと見掛ける事はあったのだが、事故の件で警察や親戚が出入りしていたり、報道関係の者がうろついていたりで、冬樹の周りは本当にバタバタと落ち着かなかった。

当然のことだが、会いたくても会いに行くことを許されずにいたので、随分と久しぶりに思えた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る