第26話

西の空が夕焼けに染まり始める頃、雅耶は自宅の門をくぐった。


「ただいまー」


靴を脱いで家に上がると、母親がリビングから顔を出した。


「あら、おかえり。早かったのねぇ」

「うん、まぁね」


洗面所に行くと、きちんと手を洗ってうがいをする。

その間にも、傍までついて来ていたのか後ろから声が掛かる。


「そうそう、雅耶。ちゃんと春休み中にいらない物とか整理しちゃいなさいよっ」

「んー?」

「高校入ったら、また物も増えていくんだからねっ。あんた物持ちがいいんだから…」


いつもの小言が始まって、雅耶は苦笑いを浮かべると、


「はいはい」


とりあえず返事をして、二階の自室へと向かった。



「とは、言っても…」


一応、素直に言われたことを実行しようと、部屋の中をぐるりと見渡した。


「いらないものなんて、殆どないよなー」


うーん…と唸りながら腕組みをする。

考えながら何気なく部屋を見回していたその時、ふと…本棚の上に置いてある段ボール箱が目に入った。


(この箱、何入れてたっけ?)


雅耶は背伸びをすると、意外に重いその箱をやっとの事で持ち上げると、床に置いた。


「あれっ?」


そこには、沢山のファイルがぎっしりと箱一杯に詰め込まれていた。


「これ…アルバムかぁ…」


存在そのものさえ忘れかけていた数あるアルバムの中の一冊を手に取ると。

雅耶は、懐かしさにパラパラとページをめくった。

まだ記憶にもないような小さな頃のものから、懐かしい思い出に残るものまで様々な自分の写真が収められている。


「あっ!これっ冬樹と夏樹じゃん!懐かしいなーッ」


そこには、雅耶と一緒に戯れる幼なじみの冬樹と夏樹が写っていた。

三人で撮られている写真は思いのほか沢山あって、まるで三人兄弟であるかのように一緒に遊んでいる姿が写されていた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る