第17話

(…遅い)


雅耶は、行き交う人混みを眺めながら溜息を付いた。


(なんなんだアイツは…。人を呼び出しといて待たせるなってーの!)


もう、待ち合わせの時間から10分を過ぎようとしている。

一向に来る気配のない友人の姿を探して、雅耶は周囲を見渡した。


駅周辺にはショッピングモールなども隣接しており、普段から人混みは多い方なのだが、春休み中なのもあってか学生や親子連れの姿も多く、今日はかなり混雑している。

何気なく視線を流していると、ふとした拍子に小さな子どもが転ぶ姿が目に入った。

まだ、3~4才くらいの男児だった。


「うっ…」


子どもは、勢いよくうつ伏せに倒れ込むとそのまま顔だけ上げて、


「うわあああぁーーーーんっ」


大声で泣き出した。


(あらら…)


周囲の人々の注目が、瞬時にその子へと向かう。

だが、泣いている子に駆け寄る者はいないようだった。


(誰か…保護者はいないのか…?)


あんな小さな子どもが、一人でこんな場所にいる訳ないだろうに…。

周囲に目を配る。

周囲の人々も子どものことを気に留めながらも、みな通り過ぎていく。


(誰か…)


そう、思った時。

傍を通りかかった一人の少年が床に片膝を付くと、その泣いている子どもを抱き上げた。


「大丈夫か?」


そっと立たせると、服の汚れをぱたぱたとはたいてやっている。

子どもは、その少年を頬を濡らしながらキョトンと見上げていた。


『誰か…』だなんて。


俺は自分が恥ずかしいと思った。

自分とそう変わらない年頃の、少年のその行動に。

少なからず好感を持って、暫くその様子を眺めていた。


「ほら、男の子だろ?」


少年が頭を優しくなでると、子どもはこくこく頷いて涙を拭くと泣きやんだ。


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