第16話

時を同じくして、また別の町に存在する静かな住宅街のある一軒家。


庭から差し込む穏やかな明かりの中、リビングのソファーに座って新聞を広げている少年がいた。

彼の姉に言わせると、そんな姿が中学生のくせにオヤジくさいとのことだったが、本人はあまり気にしている様子はない。

新聞を読むことがほぼ日課になっている少年は、慣れた手付きで新聞をめくると、気になった記事を黙々と目で追っていた。


そんな中突然、家の電話が鳴り始める。

廊下に置かれたその電話の音が耳に届いていないのか、着信音には気にも留めず、少年は新聞を読み続けていた。

否、本当は聞こえていたのだが、誰かが出るだろうと思って無視していたのだ。

だが、すかさず母親の怒鳴りに近い声が何処からか飛んでくる。


「ちょっとー雅耶まさや!いるんでしょうっ?電話出てよ!」

「……」


名指しで呼ばれてしまい、仕方なく目にしていた新聞をテーブルに置いた。


「まさやーっ!?今手が離せないのよーっ」

「あー…はいはい…はいッと…」


足早に席を立つと、受話器を取る。


「はい、久賀くがです」


すると、良く知った友人の声が聞こえてくる。


『あー長瀬ですけど…雅耶くんいますかー?』

「いませんけどー」

『あっテメーッまさや!!』


電話の相手、友人長瀬と雅耶は中学入学以来の友人だ。

こんなふざけたやり取りはいつものこと。

そして長瀬とは、この春同じ高校への入学が決まっている。


「ははは、冗談だよ。ところで何か用か?」

『ああ、お前ヒマだろッ?これから出てこないか?今駅前にいるんだけどさー…』


最初から人を暇人扱いしている友人に思わず苦笑が漏れるが、そんな長瀬の誘いに雅耶は乗ることにした。

待ち合わせ時間と場所を決めると、電話を切って出掛ける準備を始めた。


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