第14話


「結局…八年間も一緒に、ひとつ屋根の下暮らしていても、あんたがどんな子で何を考えてるのかぜんっぜん、解らなかったわよっ」


真智子は、吐き捨てるように言った。


本当は、責めている訳ではないのだ。

少しでも、冬樹に心を開いて欲しかっただけ…。


だが、どんなにこちらが感情的になって気持ちをぶつけてみても、この少年からは大した反応は返ってこないのだ。

それを、この八年間でイヤという程学んだのだから。


実際、目の前の冬樹は、先程から無言で自分の話に耳を傾けているだけで、その表情は…。

どうせいつもの無表情なのだろうと、真智子は伏せていた顔を上げて、冬樹の方を見た。

だが…。

真智子は、顔を上げたことを後悔した。

大きく感情が現れている訳ではないが、僅かながらにも申し訳なさそうに目を伏せている冬樹が、そこにはいたから。


(本当は、知っていた。この子が無理して感情を押し殺していることぐらい…)


真智子は、その冬樹の表情を見た途端、込み上げてくるものを抑えられなかった。

頬を一筋の涙が伝う。


「………」

「ごめん…泣く気なんてなかったのに…」


腕組みしていた手で顔を覆うように俯く。


「もう、行っていいよ。無駄な話に付き合わせてごめん…。元気でね…」


そう言うと、冬樹は少し間を置いた後、真智子に向かってゆっくりと一礼をすると、静かに階下へと下りて行った。



誰にも心を許さずに。

いつだって自分を奥に閉じ込めたまま。

そんなあなたを見ているのは、とても辛かった。


強がって耐えてるような、後ろ姿。

その背中は、あまりにも小さすぎて。


あなたの瞳は、あまりにも淋しすぎて。



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