第11話
「本当に出て行くのね」
部屋を出た途端、横から声を掛けられる。
そんな突然の声に驚く様子もなく、冬樹は無表情のまま、ゆっくりと相手の方を振り返った。
声の主は、この家の一人娘、真智子だった。
冬樹のいとこに当たる彼女は、冬樹より七つ年上の二十二歳。
肩にかかる長さの軽やかなパーマ姿に明るめに染めた茶髪が、気の強そうな彼女の雰囲気に妙に似合っている。
彼女は、短期大学卒業後、大手商社に就職し、現在は、すっかりOL生活を満喫し遊び歩いているのか、普段は休みの日でもめったに家に居ることはなかった。
そんなこともあって、冬樹がこんな風に真智子とゆっくり顔を合わせるのは随分と久し振りのことだった。
二人は、暫くの間無言で向き合っていたが、その沈黙を先に破ったのは冬樹の方だった。
「真智子さん、今までお世話になりました」
軽く頭を下げる。
すると、冬樹のその一声に、一瞬真智子は少しムッとした表情を見せたが、溜息をつくと諦めたように言葉を返した。
「まったく…皮肉よね。あんたが出て行くって時に、初めてあんたに名前呼ばれるなんて」
「………」
表情を変えない冬樹。
そんな冬樹の様子を見て、真智子の瞳が僅かに揺らぐ。
「あの事故からもう、八年が経つのね。早いわ…」
冬樹から視線をそらすと、頬に掛かる髪を左手でかき上げた。
そして、壁に寄り掛かり目を伏せると、記憶を手繰るように言葉を続けた。
「あの時、あんたはまだ…七歳の小学生だった…」
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