第10話

「どうしても出て行くというのか…冬樹」


伯父は静かに、もう一度こちらの意志を確認するように言った。

それまで俯いていた冬樹は、ゆっくりと顔を上げる。

すると、向かい側のソファーに座って、真剣な眼差しで自分を見つめている伯父の目とぶつかった。

その後ろには、そんな二人の様子を心配そうに見守っている伯母の姿がある。

そんな二人の様子を交互に見つめ返しながら、冬樹は静かに口を開いた。


「はい。中学を卒業したら…前、居た所へ帰ります」


本当は、少し胸が痛かった。

それでも、それを表情には出さず、冬樹は深々と頭を下げると、


「おじさん、おばさん…今までお世話になりました」


そんなありきたりの言葉を口にした。

それを言うのが…やっとだった。

その後は、伯父と伯母の顔をまともに見ることが出来ず。

軽く一礼して無言で立ち去る冬樹の後ろ姿に、ただ伯父は、


「いつでも戻ってこい」


そう、呟いただけだった。



そして、今日がその…家を出ていく日なのだ。



すっかり陽はのぼり、暖かい春の日差しが満開の桜の花びらを透き通らせる頃。

冬樹は、出発の準備を整えていた。

大まかな物は、先日全て引っ越し先へと運んでいる為、荷物は普段持ち歩いているリュックサック一つだけだ。

もともと、あまり物を持っていない冬樹にとって引っ越しは、割と楽な作業であった。

勿論、伯父達の協力は不可欠だったが。


(これで、忘れ物はないな)


身辺の備品等をリュックに詰め込んだ冬樹は、立ち上がるとほぼ空になったクローゼットの中から、唯一掛かっている自分のジャンパーを取り出すと、長袖のTシャツの上に羽織った。


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