第8話

気が付くと辺りは真っ暗闇に包まれていた。

思わず、やっぱり夢だな…などと思ってしまう。


ふと横を向くと、今まで暗闇だったそこに、いきなり大きな鏡が現れた。

一点の曇りもない、丁寧に磨き上げられたようなその鏡には、学生服を着た中学生位の一人の少年の姿が映し出されていた。

中央で分けられた漆黒の少し長め前髪が、何処からか流れてくる風に吹かれてサラサラとなびいている。

その鏡の中の少年は、冷たい視線で自分を見据えていた。


「これがオレ…。今の…」


独りの呟きが、広い空間に響き渡る。



そう。そうなんだ。この姿は紛れもない自分自身。



ふと、鏡の中の少年の瞳が揺らいだ。


「オレは、野崎冬樹…なんだ」


手に力がこもる。

その瞬間、ガシャーンという大きな破壊音と共に、目の前の大きな鏡はあっという間に砕け散った。

握りしめ、叩きつけた右拳からは、鮮血が糸状に幾つも伝って流れ落ち、その所々に小さな鏡の破片が突き刺さっていた。

足元には破片がパラパラと散乱していたが、次第に床に吸い込まれるかのように消えて無くなってしまった。

そして、再びその空間には静寂が戻ってくる。


「オレは…」


床にがっくりと膝を付く。


「オレはどうしたらいいっ?」


半ば叫び声に近いその声は、空間に大きくこだまして、やがて闇の中へと消えていった。



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