第9話
翌日以降も、ベアトリクスの元には日に数名の客が訪れていた。
部品を求めてくる職人や、素材を求めてくる冒険者。アンティーク家具を探している商人など、理由は様々だった。
そのすべてにベアトリクスは丁寧に応対した。品があれば渡すし、無かった時は申し訳なさそうに謝っていた。
ちなみにルシファーは完全なヒモ状態である。部屋をもらい、食事も用意してもらっている。働くわけでもなく、毎日怠惰に寝転んでいるか、ベアトリクスのところに来る客を観察して過ごしていた。
ふと生活費はどうしているのかと聞いたところ、かつて呪いを受けたときに国王から支払われた慰謝料と、実家からの仕送りでまかなっているとのことだった。彼女の親は娘の収集癖に対処しきれず彼女とこの屋敷を放棄したが、最低限の援助はしているらしかった。
今日も今日とてルシファーは昼過ぎに起床し、寝ぐせのついた頭を直さぬまま厨房へ向かう。
そこにはすでにベアトリクスがいて、食事をしていた。
「おはようございます、殿下。昼食はチーズパンとポトフです。どうぞ召し上がってください」
「おー。って、なんだ、その恰好?」
彼女はいつもの令嬢らしいワンピースではなく、女性冒険者のような恰好をしていた。
いつも下ろしている髪は頭の上で一つに結わえている。ピタっとしたシャツにポケットがたくさんついた上着を羽織り、足さばきのいいキュロットズボンを履いている。そして足元はヒールではなくブーツだ。
「今日はこれから西の森に行くのですわ。街のゴミを拾いつくしたので、少々足を伸ばしてみようかと」
「拾いつくしたって、お前。ちょっと極めすぎてない?」
当然といった顔で笑うベアトリクスに、ルシファーは苦笑いするしかなかった。
呪いをかけたのは自分だが、まさかこんなにも適応し、能力を極めているとは完全に予想外だ。きっと、彼女のもともとの性質――真面目で行動力のあるところと、相性が良かったのだろう。そう思うしかなかった。
「まあ、気を付けて行って来いよ」
「ありがとうございます。夕食までには戻りますので、もし誰か来たらそうお伝えくださると助かります」
「ああ」
彼がのろのろと食事を取っているうちに、ベアトリクスは自分の皿を片付け、機敏かつ優雅に厨房を後にした。
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