第25話
それから暫くして、愛子はまた会場に戻った。
そこにはもう、タレント崩れの腐れ年配俳優の姿は無かった。
一安心する愛子であったがーーーー。
それでもひっきりなしに愛子を訪ねてくる連中に、正直嫌気がさしうんざりしていた。
なぜなら、愚痴のオンパレードだからだ…………。
面倒見てやったのに売れてから、一切連絡をしてこなくなった義理の無い俳優の話。
中堅監督の奥さんが、勘違いしてプロデューサー気取りになったり、演出などに口を出してくる話。
陰で有ること無いことを吹聴して、悪口を言いふらし足を引っ張ってくる嫌な奴の話。
芝居もろくに分かってないくせに、偉そうにワークショップを開いて日銭を稼ぐ似非監督の話。
役者を目指していたが、売れないから諦めて裏方の仕事に就いたのに、まだ目立とうとしてバラエティー番組にコネで無理やり押し込んで貰う往生際の悪い奴の話。
共に苦労していた頃は、お互いのSNSにいいねを付けあったり、コメントで励まし合っていたのに、売れてからソッポを向かれた話。
手段を選ばず枕営業をしたり、卑怯な事をしながら整形手術をして別人になってでも売れようとする意地汚い奴の話。
何も知らない役者志望の素人を言葉巧みに騙し、お金を出させて映画主演させて作品数を重ねるゲス監督の話。
最もらしい正義を翳し、有名人の名前を借りて人の良心に漬け込み、クラウドファンディングで金を集めて映画を撮る実力のないセコい監督の話。
くすぶっている俳優の足下を見て、裏方の仕事や雑用をさせてノーギャラで出演させ、新人監督にも身銭を切らせる悪徳プロデューサーの話。
売れたら何を言っても正論になり、売れない奴が何を言っても言い訳や負け犬の遠吠えになり、挙げ句の果てには、だから売れないんだよと事あるごとに紐付けられる話。
大手プロダクションの圧力やテレビ局の忖度の話。
コンプライアンスとは名ばかりで、実際の中身はパワハラセクハラモラハラ当たり前の何も変わっていない話。
他にも、反社と宗教や外国と秘密結社が絡んだ話など。
しかし、全てではないにしろ今の日本のオカルト映画業界の実態なのだから致し方がないのか…………。
昔、業界の重鎮が、こんな事を言っていたのを思い出した。
「この世界に来る奴らは大半がコネで、あとは野心か自信を持った奴と勘違い野郎か自暴自棄の奴など変わり者ばかりだよ」
満更過言では無さそうだ…………。
愛子は、こんな世界に身を置きたくないと絶望した。
そして、この日を境に姿を眩ませた。
数日後、警察に捜索願が出されたがーーーー。
依然、行方不明のままであった…………。
一体何処に行ってしまったのだろうか?
「堊・丱・彌・穭・沮・霊・窩・娜…………」
「堊・丱・彌・穭・沮・霊・窩・娜…………」
「堊・丱・彌・穭・沮・霊・窩・娜…………」
夜な夜なこの呪文が聞こえて来たならーーーー。
もしかすると、愛子がすぐ側にいるのかもしれない…………。
「堊(あ)・丱(かん)・彌(や)・穭(ろ)・沮(そ)・霊(れ)・窩(わ)・娜(な)…………」
「あ・かん・や・ろ・そ・れ・わ・な…………」
「あかんやろ! それわな!!!」
ーおわりー
『妬みの痛み』 阿知尚康 @achinaoyasu
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