第11話 ゴブリン調査報告

俺たちはゴブリンキングを懲らしめた。


これで、人間の街が襲われることはもうないだろう。


実は、ついでにゴブリンキングには魔王についても尋問していた。


でも、結果はダメだった。


ゴブリンキングが他人に魔王のことを話さぬよう、魔王が口封じの魔法を施していたのだ。


ゴブリンキングが魔王について話そうとすると、ゴブリンキングの口が強制的に閉じる仕組みだ。


あの口を閉じるしぐさは演技とは思えん。


そんな器用なこと、あの力任せの戦い方をするゴブリンキングにできるはずないだろう。


まあ、本来の目的であるゴブリンキングの調査は無事完遂したんだ。


なんなら、ゴブリンキングを懲らしめたことは、目的以上の成果だ。


王様もきっと喜ぶに違いないさ。


さて、そんなことを考えていると、ユキが口を開く。


「私、何の役にも立てなかった・・・。

 全部、パンテがやってくれた。

 私、全然強くなかった・・・。

 ティアノにも守られてばっかりだった。」


だいぶしょんぼりしている。


まあ無理もない。


王国将軍のティアノとの稽古で自信を付けた直後にゴブリンキングに叩きのめされたんだ。


ユキの自信は急降下。


必要以上に落ち込んでしまうのは必然だろう。


「ユキ、きみは間違いなく強い。

 ただ、ゴブリンキングは強すぎただけだ。

 だからと言って、ユキが今後もゴブリンキング並の強さになれないわけじゃない。

 君はまだ発展途上なんだ。

 俺と一緒に強くなろうぜ!」


俺は精一杯、言葉を選んでユキを励ました。


これで立ち直ってくれるといいんだが・・・。


「パンテは強い。

 でも、それは私の実力じゃない。

 あくまでパンテの実力。

 私自身はただの弱い女の子・・・。」


あらら、相当ネガティブモードだなこりゃあ。


「ユキ!君は勇者!君は間違いなく強くなる!

 俺が保証する!」


ああそうだとも。


俺が前世でやっていたゲームの勇者は絶対、だれよりも攻撃力も守備力も高いんだ。


ユキが弱いはずない!


「ありがとう、パンテ。

 こんなどうしようもない私を慰めてくれて・・・。」


うーん、こりゃあ、彼女自身の問題だな。


俺がどうこう励ましたところで、このネガティブモードは終わらないだろう。


さて、どうしたものか・・・。


そうだ!


彼女が強くなる手助けをすればいいじゃあないか!


というか、最初からそうすべきだったんだよ。


俺は、俺のチカラを過信していた。


俺が彼女を守ればいい、と。


でも、そうはいかない強敵が必ず現れる。


その時のため、彼女を育てるんだ!


もちろん、俺自身の鍛錬も怠らない!


そうだ、王様に良い訓練相手がいないか聞いてみようじゃないか。


俺は剣術が使えないから訓練相手になれない。


王城に剣聖とかいないかな・・・。


そうこうしていると、王城に着いた。


俺たちはすぐに王様に報告をしに向かった。


---


「パンティエッタ王!

 ゴブリンキング、倒しちゃいました!」


「え、ええええええ!!!???

 数百年に一度現れる、天災のような存在だよ!?」


王様は腰を抜かして驚く。


ってか、ゴブリンキングって天災クラスの存在だったんだ。


どおりで強かったわけだよ・・・。


てことは俺ってば、天災以上の天才?


なんつって。


おっと、寒気がした。


コホン。


「あくまで懲らしめただけ。殺しはしなかったです。

 まあ、人間を襲わないと約束したので、大丈夫でしょう!」


「うんうん!」


ユキが頷く。


「そうかそうか。

 わしはあくまでゴブリンの調査のみを依頼したのじゃが・・・。

 まさか、ゴブリンキングを手なずけてしまうとはな。

 あっぱれである。

 さすがは勇者殿にパンテオン殿じゃ!

 わっはっはっは!」


あはは。


余計なことしちゃったかな、とか思ったけど、喜んでくれてよかった。


すると、ユキが口を開く。


「王様!あのう・・・。」


なにか言いづらそうだ。


「なんじゃね、勇者殿。」


「わ、私のせいで、ティアノさんが、その・・・重症なんです!

 医務室に運びました。一命はとりとめていますが・・・。

 もう、将軍として武をふるえない状態なんです・・・。

 すみませんでした!!!」


ユキは精一杯謝った。


そりゃあ、自分の責任で、国の大事な将軍を失わせることになったんだ。


罪の意識は、かなりあるだろう。


「なに!?

 わしのティアノがそんなことになっているとは・・・。

 ま、まあ勇者殿はそんなに気にする必要はないぞ。

 あやつも最後に戦場で活躍できて本望じゃろう!」


ユキはうつむいたままだ。


申し訳なさから、王様に顔向けできないのだろう。


ちょっと空気が重いので、俺は話題を変える。


「王様!この王城に剣聖とかいない?

 ユキの剣の腕を磨くための訓練相手にしたいんだ!」


そう。王様に面会に来たのはこれを聞くためでもあった。


「そうじゃのお・・・。」


王様は少し考えている。


すると、玉座の間の扉を勢い良く開け、誰かがやってきた。


バンっ!


「勇者はここか!」


20歳くらいの、短髪で金髪の男だ。


王様がまたまた腰を抜かす。


「な、な、なんじゃ急に大声で!

 脅かさんでくれい!」


「これは失礼いたしました、王様。

 私、ティアノ将軍が息子、ルティアーノにございます。

 先刻、父から将軍の跡を継ぐよう言われました。」


「ほう、ティアノがそう言うならばお主を将軍として認めよう。

 じゃが、なんじゃ、急に。

 お主との面会の予定はないぞよ?

 今は勇者殿との面会中じゃ、下がれい。」


王様はぴしゃりと言った。


俺たちの前とは違って、なんかちょっとカッコつけてるな、王様。


「そ、そうです、それなんですよ!

 私の父ティアノがそやつのせいで引退を余儀なくされた!

 なんてことをしてくれたんだ、勇者ともあろう者が!」


ルティアーノは俺たちに難癖をつけてきた。


いや、難癖ではないか。事実だ。


だが、ティアノの息子に怒られる筋合いはない。


ティアノも戦場に赴いた時から、こうなることは常に覚悟していたはず。


まあ、親父を引退に追い込んだ張本人に腹が立つ気持ちはわからんこともないがな。


「ご、ごめんなさい・・・。」


ユキはうつむいたまま謝る。


って、ユキ。


ちょっと泣きそうじゃないか。


俺のかわいいユキを泣かせるやつは許さんぞ!?


俺は話に割って入る。


「おいおい、ちょっと待て。

 俺たちがティアノを引退に追い込んだのは確かに事実。

 だが、ティアノもそれを覚悟の上で戦場に飛び込んだはず。

 そこまで怒鳴り散らす必要はないじゃないか!

 俺たちだって、ゴブリンキングとの戦闘で必死だったんだ!」


俺は必死に反論した。


「ふん。まあ、親父も同じようなことを言っていた。

 だがな、親父をあんなふうにされて黙ってる息子がいるかよ!」


ごもっともです、はい。


俺はぐうの音しか出なかった。


「ぐう・・・。」


「って、いま。

 勇者の腰辺りから男の声がしてたぞ!?

 誰だ、隠れてないで出てこい!」


おいおい、俺が隠れずにお前の前に出ちゃったら、ユキがノーパンだよ・・・。


まあ、自己紹介もかねて、俺は腕を4本出した。


「俺は伝説の武具、パンテオン!

 この子のパンティをしている者だ!」


バンっ!!!


決まったぜ、自己紹介。


すると、ルティアーノは照れながら腰を抜かす。


「パ、パ、パ、パンティ!?」


王様が説明を付け加える。


「伝説の勇者には、言葉を解する伝説の武具がおるのじゃ。

 それが、このパンテオン殿じゃわい。

 わしもパンティと聞いて、はじめは驚いたわ。

 でもな、あのゴブリンキングを屠るほどのチカラの持ち主じゃ、あなどるでないぞ、ルティアーノよ。」


「な、なるほど・・・。」


ルティアーノは俺の4本の腕を見ると、ごくりと生唾を飲んだ。


それ、恐怖からくる生唾と性欲からくる生唾、どっち!?


場合によっては殺すよ?


と、冗談はさておき。


「まあ、なんだ。

 伝説のパンティである俺がついていながら、ティアノを守れなかったのは申し訳ないと思っている。

 面目ない、この通りだ。」


俺は4本の腕でお辞儀をする。


「パ、パ、パンティでお辞儀をするな!

 この破廉恥勇者め!」


ルティアーノは照れ隠しでひどい言葉をユキにぶつけてしまった。


ユキの額にはピキピキと怒りのマークが見える・・・。


「だ、だれが破廉恥ですって・・・?」


おっとルティアーノ君、ユキを怒らせてしまったか?


「パンテは、そんな破廉恥な男じゃない!

 舐めるな!この親の七光りヤロウ!!!」


ユキ!よくぞ言った!


そうだ、こいつは所詮は親の七光り!


「ほう、この剣聖ルティアーノ様が親の七光りとな?

 実力を分からせる必要がありそうだ・・・。」



<作者あとがき>


次回、VS ルティアーノ!


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