第33話

僕、川島さんの目のこと全然知らなくて…。



あの…、


ホントに暗譜なんだとか言ったりして…」



いや…、


むしろあたしは、その後の言葉の方に振り回されてたんだけど…?



「ホントごめん!



あの…、許して もらえますか…?」




ま、その様子を見る(聞く?)限り、



彼は本気で謝っているみたいだし、



悪い人じゃなさそうだ。



偏見とかがなくて、本気であたしに接してくれるのなら、


ちょっとした失言なんて、どうでもいい。




『大丈夫だよ。


あたし、全然気にしてないから』




ホントに暗譜なんだって言われたことは、


本当に何も気になってなかったからね。




「ヒュー!」



室内のどこからか口笛が飛び、


みんなからの拍手が響いた。




「美奏ちゃん、


良かったよ、すごく」



左隣の席に座っているさゆが、小声であたしにささやいた。











「美奏ちゃん、


ほんっっっと ごめん‼」




休み時間。



さゆが祈るように手を合わせて謝ってきた。



『一時はどうなるかと思ったよ。


完全に空気 凍ってたし』



「や、どうしたらいいか わかんなかっただけだと思うよ」



絵里が口を挟んだ。



「同じクラスに体の不自由な人がいたことないと、


基本的にそういうことに免疫ないしさ」



絵里はそう言うと、申し訳なさそうに肩をすくめた。



「それに、去年一緒のクラスだった人は、


同じ説明を一度聞いてるじゃん?



なんか、拍手したり何か言ったりするのも わざとらしいかな、とか考えちゃって、

結局何もできなくて…。



ホントごめん!」



さゆがもう一度頭を下げた。



『もういいって。


無事に乗り切ったんだから』



確かにさゆの言うことも一理ある。



クラスのみんなとの間の溝を埋めるべく、


自分の病気と向き合い、きちんとクラス全員の前で説明することを選んだのは、去年の秋。



真里や清美、リカ達からの激しいいじめに耐え続け、


心身共にボロボロになっていたあたしにとって、


病気のことや 自分の胸のうちを告白することは 大きな賭けだった。



できることとできないこと、


みんなと仲良くしたいこと、



伝えることで いろんな誤解が解けるかもしれないけど、


逆に 言い訳だって叩かれるかもしれない。

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