第31話

あたしは、


生れつき目に障害があって、遠くのものを見ることができません。



自分の手のとどく範囲ぐらいしかはっきり見えないので、


みんなの顔もちゃんとはわかりません。



声とか背格好とか 足音とかで人を判別していますが、


時々人違いとかあるかもしれないので、その時は許してください。


わざとじゃないので』




あたしは、



やはり視覚障害を持つお母さんから その遺伝子をしっかり受け継いでしまったみたいで、


目には5~6個の病名がつけられている。




そのうちのほとんどは治療法のないもの。



視力が極端に低いのに加えて、


眼球が絶えず微妙に振動しているから、一点をじっと見つめることができなかったり、



上下と左側の視野が狭くて、前と横や足元を同時に見ることができなかったり、



暗い場所では全く見えなくなってしまったりと、



生活するのに不便な症状がいっぱい出ている。




文字なんかは、うんと近づければたいていのものは読めるから、読み書きにはそれほど困ってない。



一番困るのは人の判別。



顔の中に目や鼻があるのは何となくわかるけど、


その特徴までは見ることができない。



自分の顔は鏡を近くで見れば見られるけど、他人の顔はそんなわけにいかないもんね。



『黒板を見る時は 単眼鏡という 超小型の望遠鏡のような補装具を使っていますが、


あまり遠くは見えません。



みんなの目を借りなければいけないことがあると思うんですけど、


その時は 迷惑かけますが、助けてください。


お願いします』



単眼鏡は、あたしみたいな弱視(特殊で完治の難しい病気によって、視力が0.02~0.3までしか出ない状態)の人が好んで使う補装具のひとつ。



教室内の掲示物や時計、黒板を見るのは、

これなしでは不可能だ。



外でも、店の看板や電車やバスの行き先表示や時刻表、ホームの電光掲示を見るのに大活躍する。




ただ、この単眼鏡、


中途半端に遠いものに強いけど、



本気で遠いものにはちょっと役不足。



携帯用の遠くを見るための補装具は今のところ これしかないから、諦めてるけどね。



『あと、


今あたしは、緑内障という病気の治療のために病院に通っています。

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