第27話

「響一と澄歌は、努力すれば何にでもなれる可能性を持ってるんだから、


いろいろな事に関心を持ってごらん。



興味や関心、趣味の引き出しは多くしておけば、いずれ身を助けるからな」



趣味の引き出しは多い方がいいって、


お母さんにも言われたことがある。



「そうそう。


世の中 どんな所で何が役に立つかわかんないんだからね」



お母さんが同調する。



「それから、美奏」



『はい・・・?』



急にお父さんから話をふられて、


思わずマヌケな返事を返してしまった。



「美奏にはそろそろ言わなければいけないと思っていたんだが・・・」



何・・・?



「さっきの話の蒸し返しみたいになるけど、


美奏は 全く将来のことは考えずにピアノに取り組んでいるのかい?」




『う・・・、うん・・・』



お父さん・・・?



「いや、今すぐ決めろと言うんじゃない。


でもな、


もし美奏が ピアノや音楽を仕事にしたいと少しでも思っているのなら、


今のままのレッスンでは駄目だぞってことを伝えとかないといけないと思ってな」



『・・・・・・』



何と言っていいのかわからなくて、言葉が出ない。



「でもさ、美奏ちゃん めっちゃ練習してるじゃん。


春休み中も1日中練習してる日とかあったし。



どうして駄目なの?」



あたしのかわりに澄歌が聞いた。




「まず、テクニックをもっとつけないといけない。



今は楽しんで弾いているだけだから、長所を伸ばせばいいかもしれないが、


プロになるには、ある程度 一定の水準の技巧が必要なんだよ。



それと、楽理の知識。


音楽の学校に行くには避けて通れないからな」



音楽を仕事にする・・・。



考えたことはなかった。



幸せな将来なんて、願うだけムダだって ずっと思って生きてきた。



いじめがなくなって、初めて毎日が楽しいって思えるようになっても、


その一日一日をこなすことにいっぱいなのと、


また何かの拍子に 地獄のような日々に逆戻りさせられるんじゃないかっていう 根拠のない不安が先に立って、



あえて正面から向き合わないようにしていたのかもしれない。




「そういう意味では、彼の言うことも一理あるのかもしれないな」




江崎君は、将来の目標に向かって 本気のレッスンを始めてる・・・ってことだよね・・・。

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