第三戦目 女王蜂の采配


12日の水曜日

数年に一度の程度しか揃わない事もあれば、連続して揃う事もある日と曜日。

セラディア王国では、この日は“不吉の日“として広く文化的に知られている。


“124代目首相暗殺未遂事件“

“キリコープトン連続殺人未解決事件“

“ワニグマン報復大虐殺“


これらは全て、12日の水曜日に起きている。

そしてもう一つ、セラディア王国内で世間を震撼させた事件が起きた。






➖女王蜂の采配➖



戦争は貧しさを生む、だが全てではない。

戦争により莫大な利益を生む、人間も少なからずいる。

セラディア王国各地で紛争が多発しているおかげで、ある地域では麻薬や武器の景気が上がり続けている。


第弐氷団・北部方面の寒冷暗黒街

“ティーマノッタ“。

ティーマノッタの建物はレンガ建築のが多く、劇場や酒場などの整備は整っており、街並みは歴史ある西洋の都会を感じさせる。

この街に住む人間は、マフィア・ギャング・殺し屋・用心棒・殺人鬼・武器屋・情報屋・死体処理屋・売人・闇医者・薬物中毒者など、荒くれ者ばかり。

住人のほとんどが非合法の犯罪事業に手を染めており、この街では法など無意味に等しい。


朝方は静かだが、夜行性のある闇住人達は巣から顔を出し、行動が活発的になる。


王国では王家の安全性を考慮して、独賊が最優先に討伐対象とされている、ティーマノッタの治安改善は後回しとなっているが、その判断は誤りだった。

無法者達を野放しにしてしまった事で犯罪組織は凶悪化するばかり。

1人の警察団員がマフィアの構成員に集団リンチされている光景。

街中の路上で誰の目も警戒せず、麻薬を接種する中毒者。

この街にもはや正義は存在しない、あるのは光を閉ざした吸血鬼達。


街の支配権を握っているのはマフィアで、独占的に街の真ん中を歩く。

だが日頃から同業者同士の抗争が絶えず続いており、そんなマフィア達の溜まった疲れを癒すのは、“娼婦“だった。

とある中年幹部マフィアのボスが、売春街で娼館の飾り窓から、今日の癒しの女を探す。

*飾り窓とは、店内で窓の前に娼婦が立ち、店の外にいる顧客と直接交渉するスタイル。


中年のマフィアボスは、10代ぐらいの和服を着た亜仁の娼婦に目が止まり、直接交渉、そして双方合意で成立。


ボス「キミの名前を聞いておこう」


ベリーショートマッシュの亜仁娼婦は、目線を下にして答える。

「"千草竜心"と申します」



*千草竜心 17歳 職業:娼婦


3年前、12日の水曜日に陸条會で絶対に殺されたはいけない“人間“が殺された。

事件は王国内で大体的に報道され、国民を震え上がらせた。

陸条會で殺人は空気みたいなもの、しかし、小物が殺されたのとは違う。


王国政府は陸条會を“特策危険区域“に認定、これにより陸条會は誰も立ち入り出来なくなった。

そしてセラディア王国の地図から“陸条會”という街は、消え去った。


蜂達は巣を失い、新たな巣を求めていった。

ある者は独賊、ある者は軍人、ある者はマフィア、ある者は料理人、ある者は娼婦。

千草は両親共に街を出て、すぐに他のスラムに移ったが、両親は2年前に病死。

両親が残した遺産で、人生を挽回するために念願だった教師を目指すが、現実は甘くない。

スラム出身の子供など、偏見的な目で見られ、どの大学も受け入れてくれなかった。

ゴミ溜めの街から出ても、心には汚れ汁が固くへばり付いて取れない。

千草は、あの大嫌いな街から抜け出せていなかった。

金は尽きていない、だが夢を目指す力は尽きた。

そして気づけば来ていた服を全て脱ぎ、殻を脱ぎ捨てたナメクジとなっていた。


“あの日“から、独立国家ごっこのメンバーとは、亀太を除き誰とも会っていない。

亀太も暗黒街の千草が務めている違う娼館でボーイの仕事に就き、マフィアから雑用仕事を任されている。

顔を合わせるのは、偶然と呼べる瞬間だけで、特に亀太が娼館の外周りを霧の中でシャベルを持ち雪かきをしている時にバッタリと会う程度。

会うのはいつも早朝で、大抵軽い会話で済ませて終わる。


亀太「・・・よう」

千草「・・・おうよ」


早朝なのでお互い目にクマが出来ている、それとも仕事疲れによる影響なのか、若さ故の元気さも感じられない。


亀太「・・・お前、疲れてるのか? 今にでもぶっ倒れそうだぞ」

                              

千草「・・・そういうアンタもな」


亀太「・・・ヤダヤダ、朝っぱらからお互いアホ面を見るなんて、疲労が倍増するわ、じゃあな」


亀太は雪かきを終わらせ、店に戻ろうとした時に、千草は気になっていた事を聞く。


千草「・・・“奥さん“は元気になったか?」


亀太「・・・元気なわけ無いだろ」



亀太の奥さんは疫病に侵されていた。

最初は軽い熱ですぐに容態は回復するかと思われた、けど一向に熱は下がらず、それどころか上がり続け、家で寝たきり状態となる。

医者に診てもらった所、余命を宣告された。

治せない病気ではない、問題なのは薬を買う金、どこに行っても金。

金はこの世に腐るほどあるのに、手に届かない。

亀太もまた、千草同様にあの街から抜け出せていない。


千草は今の仕事に疲れを感じてはいるが、嫌気が差してるわけじゃない。

刺激も無く、変わらない日常を無限ループの如く繰り返す、“明日が無い”。

彼女にとってこれが1番堪える、そして今日も殻を脱ぎ、雄に抱かれ、変わらない1日を過ごす。



娼婦達の間でも客によっては願い下げと願い出がある。

まず娼婦達が好まない客は、“ギャング“。

ギャングは客の種類の中で最も暴力的で、不潔でしかも薬物中毒者が多い、最悪の場合は殺されかれない。

酔っ払いの客もタチが悪いが、クソガキの称号を背負ったギャングよりかはマシ。

ストリートギャングみたいな粋がる人間は、どこの世界でも好まれない。


そして娼婦達の間で好まれる客は、意外にも暗黒街の看板である“マフィア”。

特にマフィアのボス格は品があり、正装で紳士的な者が多く、さすがならず者を束ねる組織の頭領なだけに気前もいい。

娼婦がサービス精神が旺盛なら、料金とは別にチップを弾んでくれる。

千草も願い下げはギャング、願い出はマフィアと区別している。



夜になり、暗黒街は昼間とは違い、賑やかさを増し、街の至る所にある娯楽施設が開店する。

売春地区も稼ぎ時の時間となり、娼婦達は気合を入れる。


千草が勤めている店に、1人のボス格のマフィアが一番乗りで来店する。

黒いシルクハット、ポローコートを羽織り、革靴を履いている、上品の格好からマフィアなのは一目瞭然。

長めの茶髪をオールバックにしている髪型で、細めの鋭い目つき、女性にも負けないバランスの取れた体格の美形。


フロントエリアにいる娼婦達は。

娼婦Ⅰ「見てよ、いい男じゃない?」

娼婦Ⅱ「しかも見た目からして、絶対にマフィアよね?」

娼婦Ⅲ「アタシ、抱かれてみたいんだけど」


娼婦達は美形の客に買ってもらおうと詰め寄る。

しかし、客は人気のある娼婦に目もくれず、まるで初めから決めていたかのように、カウンター席にいる千草を指名する。


マフィア客は千草と料金の交渉を済ませ、2階に上がり、部屋で夜の営みをする。

今日の夜も千草は変わらない夜、そう思っていた。

しかし違った、この夜から止まっていた時間が動き出す。

好き嫌いが別れるとはいえ、どんな客だろうと金を払えば自分の体を弄ぶのを許す、それが娼婦。

だが今回の千草の客は、過去に自分の親友の息の根を止めた男、

凶蜂“大東清士郎”。


千草は日々の疲れで彼の存在に気づかず、無意識に金を受け取り体を許してしまった。

思い出したのは、光を消した暗闇の部屋の中で鋭く光る眼光、上から自分を見下ろす体勢で見覚えがあると気付いたのだ。

この男と一緒に裸になる共同作業は、頭が真っ白になり、力強く、激しく、“あの世”に近づきそうになる。

娼婦を始めてから愛した男に一度も抱かれたことはなく、一度憎んだ男に抱かれてしまった。

全ての体のパーツを念入りに使われた、唇・舌・首・胸・尻・陰部。

容赦なく千草を責められ身体的快感、同時に千草は疑問感を持つ

“自分の事を覚えて以内のだろうか? それとも分かってて抱いてるのか?“

“自分の背中を刺した人間の顔を忘れる訳ない、自分だったら忘れない“。

千草は行為中に、そっと大東の背中に手を置き、バレない様に刺した部分を探る。

そしたら傷跡らしき手触りを感じた。



大東「覚えているよ、何せ“初“のことだから」


千草「!?」


大東と千草は一段落つき、肉体労働から接待に移行。

大東はソファーに座り葉巻を吹かす、千草はうつ伏せの体勢でベッドに乗り、大東と緊張感のある独特な会話をする。

今までミステリアスに包まれていた大東だったが、今の自分を隠す事なく教えてくれた。

スラム街に居た時から既にマフィア活動を始めており、相棒の“九西白斗“と共に組織を創設する為、ストリートギャング達を自身の組に糾合していった。

陸条會を出てから、本格的なマフィアになり、ある巨大マフィア組織に入る事を目指す。

チンピラ時代から大物マフィア顔負けの頭角を表していたので、最大規模を誇る組織“ホワイト・ブラック会社“から勧誘を受ける。

そして異例のスピード出世で、ホワイト・ブラック会社の大幹部となり、現在に至る。


千草はその話を聞いて、特に驚く様子は見せず拍子抜けした。

ミステリアス感のある大東清士郎という男に意外性は無く、噂通りの男で、現在の姿も想像が付く

人間だった。

この男がマフィアという事になんら違和感はない、逆に普通の一般職に就いてる方が違和感がありすぎる。


千草「なるほど・・・凶蜂と恐れられた男はマフィアの飼い犬になったか」


大東「・・・女王陛下は、売女となったか?」


千草「・・・意外か?」


大東「・・・意外だ」


千草「その言葉を出す方が意外だ、あの街の生まれでまともな職に就いた人はいるのかい?」


大東「あの街に戻ってないのか?」


千草「戻るも何も、行った所でもう無くなってるだろ? 数えればあれから3年は足を運んでない」


大東「・・・なら明日、帰郷してみるといい」


千草「何で?」


大東「一年の時間が過ぎるだけで世界は大分変わる、何か見つかるかもしれない」


千草「・・・ていうか何で独立ごっこしてた時のアタイの役職知ってんの?」



親友を殺した男といつの間にか打ち解け、気がつけば警戒心が抜けて、久しぶりに身のある会話をした。

友を殺した男に抱かれるのは、なんとも複雑な気持ちだったが、初めて女の子を卒業した時の記憶が蘇り、刺激的な快感を得た。

どんな体験も最初が1番記憶に残っている、“原点こそ頂点“、この日を境に千草の“初“の連鎖が始める。



千草はティーマノッタの娼館を三つ掛け持ちしている。

端正な容姿なので、売春区ではそこそこ人気があるが、それだけで店側から雇われてるわけじゃない。

彼女はどんな客だろうと手を抜かない性接待は、アウトロー達から大層喜ばれる。

仕事の時は聞き上手で、自分の無駄話をしない、男を興奮させる心理は全て計算している。


でも今は良くても、いつかは飼い殺しにされる日が来る、先が見える暗闇。

千草は毎日その事が不安だったが、王の素質があるものは先見の明がある人間。

短気で男勝りだが、ビリオス共和国のメンバーの中で計画性の高さから、アスク先生は女王の椅子を譲ったのかもしれない。


千草はしばらく働き詰めだったので、休みを取り、久しぶりに生まれ故郷“陸条會”に足を踏み入れる。

王国から危険区域認定されただけあって街全体を囲むように、フェンス鉄条網と有刺鉄線が張られていたが、軍や警察らしき人物の見張りはどこにも見当たらない。

恐らく、紛争や犯罪者などの対処で、兵士も警察団員も手が足りないのだろう。

見張りはいないとはいえ、そう簡単には入れない。

しかし昨夜に大東が、「鉄条網と有刺鉄線を取り外しているフェンス部分がある、そこからよじ登れ」と、目印は赤いスカーフ。

千草は少し歩き回るとすぐに赤いスカーフを見つけて、よじ登った。


この街を出て分かった事がたくさんある、それは異常だと。

今住んで生活している暗黒街のティーマノッタよりも地獄だったと。

軍が開発して、そして故障して、この街に捨てた兵器は住民を殺していた。

それが平然とある、銃やナイフ、爆弾も、当たり前のように捨てられてあった。

もしなかったら、千草の友は死ぬ事もなかった。

生活の資金源となっていた鉄は、この街では生きる糧、時には住民同士の賭け事の賭け金。

だがよその世界では、単なる“ゴミ“。

人類の敵でもあり、地球の敵でもあるゴミがスラム住民達を救っているなんて、皮肉な物だと千草は思う。


そしてそのゴミは、3年経った今もこの街に無数にある。

政府は人間を追い出したのに、ゴミだけは撤去せずに放置した。


久しぶりに街を歩き回る千草、人はいなくなっても3年前と景色は変わらないので、子供の頃に楽しんだ、“独立国家ごっこ“が続いてる感覚に囚われる。

自分達の基地に国旗を立て、それを奪い合う。

朝も夜も続くので、国旗は24時間誰かが側で守らなければならない。


千草(今思えばメチャクチャな遊びだったなー・・・ん?)


千草は20メートル方向にある物が視界に映る、それは三階建ての中層建築物。

見た感じ廃棄物で建築されているが、妙に成形的に構築されている。

誰かが建てたのだろうか? 

千草が陸条會に居た頃は、あんな中層な家は見た事ない。

捨てられた廃棄物で住居を組み立てるのは、スラム住民の常識的習慣。

しかし、最低でも二階建てが限界、ゴミが材料の家なんてすぐに倒壊する。

ほとんどの住民が一階建てか、動かなくなった車両の中で寒さを凌いでいた。


状況から考えると、この街が危険区域にされてから、誰かが建てたに違いない。

今もこの街で暮らしているのだろうか、それは誰だかなんとなく想像は付くが、理由が分からない、なんの得があるのか?


千草は興味が湧き、中層建築物方向に足を進める、10メートル付近で足が止まり、再び驚異する。

その中層建築物の屋根の上には、緑色と黒いシンボルマークが入った、国旗が掲げられていた。

千草はその国旗に見覚えがあった、それもその筈、その国旗に描かれているシンボルのマークは極寒で強く生きる蜂の象徴。


つまり、

千草「アタイ達の国旗!」



千草は期待の胸を膨らませて、歩きから走りに変える。

あの家にいる人間は昨夜の客だと想像は付くが、もしかしたら子供の頃に独立国家ごっこをしていた、ビリオス共和国の仲間の誰かかもしれない。

街を出てから亀太以外の仲間とは一度も会っていない。

千草は長く続いた孤独を埋めるために、昔の仲間と再会をしたかったのだ。

過去を捨て、自分を捨て、夢を叶えるために友情を捨て、そして挫折。

あそこには誰がいるのか?

紙氏? 凛太郎? アラキ? 下古?

千草の心中では、仲間内で1番馬が合った紙氏で居て欲しかった。


しかし、向かった場所にたどり着いた時に視界に居たのは、大東清士郎・九西白斗 そして見た事の無い、浴衣姿の坊主頭の亜仁女性。

その亜仁女性は紙氏の面影はあるが、目立つ口ぼくろがあり、見た目からして年齢が大東達と近い。

紙氏とは同じ歳なので、今頃は17歳のはず。


想像通りの男達は居たが、期待した仲間はどこにも見当たらなかった。


中層建築物の手前で、大東達は“ホルス“を飲みながら、ソファーに座ってくつろぐ。

*ホルスとは、セラディア王国産のアルコール酒。アルコール度が高く、飲むと一時的に体温が上がる。

極寒国のセラディア内では、非常に人気のお酒。



大東「・・・来たか」


千草は、まず疑問を大東達に聞く。


千草「あの国旗は?」


屋根の上にある、ビリオス共和国の国旗に指を刺す。


大東「ああ、あれか・・・見覚えがあるだろ? なんたって君達の国の大事な国旗なんだから」


千草「なんでアンタ達が持ってるか聞いてんの!」


千草は恐怖心が鎮まり、怒りを大東達にぶつける。


九西「何か問題でも?」


千草「あの旗は、アタイ達が考えて作り、一生懸命体を張って守った国旗なのよ!

それを仲間でもなかった、アンタ達が使っていいもんじゃない!」


九西「遊びはもう終戦したんだろ?」


千草「変な期待を持たせないでよ! 大東、アンタ何のつもりなの?」


大東「・・・」


九西「落ちつけよ、ほら、ホルス飲んで頭を冷やして、いやダメか?

これ呑んだら余計に熱くなるか?(小笑い)」


千草は九西からグラスに注いだホルスを渡されそうになるが、彼のジョークと共に手で振り払う。


大東「白斗の言う通りだ、少し落ち着きな」


千草「・・・偶然じゃない事は分かってるのよ・・・昨日の夜、一体何を求めてアタイに会いに来たの?」


大東「・・・あの国旗は、新しいのを作るのが面倒いから再活用してるだけだ」


九西「あと結構気に入ってる」


千草「・・・どういうこと?」


大東「さっき白斗が言ったろ、遊びは終戦・・・次は“本物“の再戦だ」


千草「・・・アンタ・・・まさか?」


千草の脳裏に、二つの言葉が浮かぶ。


独立と戦争



大東「そうだ・・・ここはもうセラディア王国じゃない・・・ここは俺達の“国“だ」



大東は予期していた。

マフィアも独賊も、そしてセラディア王国も遅かれ早かれ崩壊の運命が待っていると。

アウトローはどれだけ綺麗事抜かしても、嫌われ者、そんな事は歴史を見返せばすぐに分かる事。

兵士もそうだ、昔は剣や盾や弓などが武器だった、戦場で駆け回るのは馬だった。

でも今はより複雑化して、装甲車や空中戦艦なんて物が生まれ、火種は広がるばかり。

兵士という生き物は常に新しく進化し続ける、だがそれは古い物を不要となる。

世界にある“原理“とは、何度も破壊と再生を繰り返すこと。

長年、ハミナスが統治してきたアンマー大陸も一度は手に入れたとはいえ、これだけの大陸を支配し続けるのは困難極まりない。


だが問題なのはそこではない、ただ崩壊すると分かってて待つのは罠に掛かったネズミと同じ。

居場所は自分で作る、そしていずれやって来る未来を迎え撃つ。

その対策の第一計画として、特策危険区域認定された陸条會と言われていたこの土地を買い取る。

土地一つ買えるほどの莫大な資金さえあれば、危険区域でも法に沿って買う事が出来る。

それからこの土地を拠点にして、独立国家を秘密裏に拡大していく。

いずれセラディア王国と大戦争に発展し、渡り合えるほどに戦力となるまで。



大東「首尾は上々、問題はこの国の最高位に座る“女“を探している」


大東は真剣な眼差しで、千草を見つめる。


千草「・・・アタイに女王になれと?」


大東「そうは言ってない、今話したのは独賊の独り言だ」


千草は怒りを混じりながら、答えを出す。


千草「・・・冗談じゃない! 誰がアンタ達の国の女王になるか!」


九西「でもあの国旗はアンタ達のだろ?」


千草「うるさい!・・・忘れた訳じゃないでしょ、国から独賊認定された人間がどうなる

か?」


大東「・・・何が言いたいんだ?」


千草「法の名の下では、独賊だと分かればその場で即死刑! 軍も警察も、はたまた市民でさも独賊を駆除する事を許されている」


大東「それがどうしたんだい?」


千草「!?・・・これ以上、何を言っても無駄ね・・・驚いたよ、まさかアタイらの遊びをまだ続けてる人がいるなんて、いやアンタの場合は・・・付き合ってるか」


大東「・・・」


九西「お嬢ちゃん、どうすんの?」


千草「帰るわよ、巻き込まれるのはゴメンだから、今日の事は聞かなかった事にしといてあげる」


千草は大東達に背中を見せて、喋りながら去っていく。


千草「それじゃ頑張ってねー、疲れが溜まったらいつでも店で待ってるから、サービスはしないけど」


大東は立ち上がり、去っていく千草に“選択肢の言葉“を届ける。

この言葉が、千草の心を迷わせる。


大東「独賊より、娼婦の方がマシか?」


千草「!?」


大東「俺はマフィアより、独賊の方がマシだと思っている・・・暗黒街にいるマフィア達は今は堂々と街の真ん中を歩いているが、奴らはいずれドブネズミの様に地下で暮らす未来が待ってる」


千草「・・・」


千草は答えを出せず、無言のまま歩いて去って行く。

千草の姿が小さくなりながら、大東は言葉を発し続ける。


大東「人間最後の選択肢は、どちらが“マシ“かで選ぶもんさ・・・違うと思うか、千草!」







ティーマノッタの夜は今日も賑やかで、活気的になる。

乱闘・薬物注入や取引・SEX・殺しが、どこかで行われている、この街では当たり前のこと。

この暗黒街のボスは男と決まっている、女王蜂はどこにもいない。

だがいずれ女王蜂に変化する、雌蜂は今は男に抱かれ続けている。



消え去ったスラム街“陸条會”を帰郷し、そして思い出が済んだ後に職場に帰還。

それから一週間経ち、休むことなく仕事に明け暮れる。

実はあの秘密裏に進んでいる独立国家計画を聞かされてから、すぐに娼館に向かい、休み

を取り消して仕事に取り組んでいる千草。

食事をしても、入浴しても、睡眠をしても、タバコを吸っても、気が晴れない。

むしろ、ベッドの上で汗をかく仕事をしてる時だけが忘れられる。

マフィアでも、ギャングでも良かった、誰でもいいから自分の脳裏にある“欲“を忘れさせて欲しかっ

た。


そして奮発した2人の大物マフィアボスがハミナス人・ノークタ人・ホフヌング人・亜仁と人種がバラバラの4人の娼婦を、娼館のオーナーに高額な料金を払って貸切した。

大物マフィア達は4人の娼婦高級住宅に招き、広いフロアで乱交パーティーを開催した。

その中に千草は居た。

久々の重労働は“今“の千草には望むところ。


4人の娼婦とは顔見知りだが、話した事はない。

それでも仕事である以上は、女同士でも体を交わさなければならない。

千草の売春魂では、娼婦は金を貰って体を男に預ける、それなら手を抜く事は自分の中では許さない。

体はプロモーションを保ち続ける、肥満になるのは契約違反。

心は常に美学を意識し続ける、それが千草竜心という女。

ホフヌング人、ノークタ人、ハミナス人、千草、亜仁は種族の中でも身長が低い、よって千草が1番小柄で胸も小さい。

だが、数多くある娼婦の中から自分を選んだ、その期待に応える為にどの娼婦よりも積極的に責める。

中年男の体を抵抗する事なく舐めまわし続け、その頑張りを認められたのか、4人の中で1番チップを弾んでくれた。

長時間の乱交が終わり、娼婦達もマフィアの男達も心身共々クタクタ。

2人の男はソファーに座らずに、地べたでに座って葉巻を吸い、雑談をする。

4人の女は、裸のまま床で寝そべる。

千草を除く3人の女は、本当に寝ているが、千草だけは起きていた。

仕事が終われば、再びあの“言葉“がフラッシュバックする。

千草は自分自身でも気づいていた、今の自分が変わりつつある事に。


千草の頭の中はあの言葉が離れなかった。


『最後の選択肢は、どちらが“マシ“かで選ぶ』


この言葉を聞いてから、今までドブの様にへばり付いていた疲れが体から消え去った。


全てのサナギが美しく羽ばたく蝶になるわけじゃない。

今の千草はサナギだが、環境を変えて空を飛ぶサナギになりかけている。

だがそれでも、あと一歩寸前で殻を破れずにいる。


大東は言っていた、暗黒街の住人はドブネズミの様に暮らしを強いられると。

それならなぜ独賊になる必要があるのか? 同じじゃないのか?





千草『アイツはバカか? 独賊か娼婦、どっちがマシと言ったら娼婦を選ぶ。

独賊になれば命がいくつなっても足りやしない、女王なら他を探せばいいのに、クソ忘れ

ろ、忘れろ、惑わされるな、そうだもっと仕事を増やして、時間が過ぎるのを待つんだ。

そうすればきっと、いつかは冷めてくるはず。

大東達の誘惑に飲まれそうになる、だが奴らは単にアタイを利用したいだけのはず。

言葉巧みに載せられてはいけない・・・いけない・・・いけ・・・無い。

気づけば私には家族はいない、作る事は出来るが、作るなら愛した人とがいい。

でもそれもいない・・・?』


千草は目の前にある、何個かあるソファーから1人用の大きめのソファーに目が行く。

過去にリビオス共和国の女王だった頃を思い出し、そのソファーに座りたくなった。

立ち上がり、マフィア達に気づかれないように王様気分で座る。

会話に夢中になっているマフィア達は気づいてない、それに気づいても何も言われない。

ティーマノッタのマフィアのボスは器量で慣用的なのは、娼婦には把握済み。




千草『セラディア王国の女王は、いつもどんな気持ちで国の頂点の椅子に座っているのだろうか?

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・こんな気持ちなのだろうか?』


今の千草は瞼を閉じ女王様気分状態、何にも縛られない解放感と特別な存在の優越感。

過去に自分の国にあった城の女王の座に座っていた、清々しい気分の汁が溢れ出てくる。



マフィアⅠ「何やってんだアイツは!」


千草「!?」


千草は我に返り、マフィアが口に出した“アイツは”自分の事だと思った。


マフィアⅡ「最近は羽振りがいいと思ったんだが、まさかあんな事になるなんてよ」


マフィアⅠ「頭領は知ってるのか?」


マフィアⅡ「まだだ、でもこの件は自己処理が済むまで報告はしないつもりだ」


千草は自分の事ではないと安心して、ソファーから降りる。


マフィアⅠ「“大東“の野郎、一体どうするつもりなんだよ」


千草「!?」


千草は耳を澄ませて、マフィア達の会話を盗み聞きする。


マフィアⅡ「分裂した構成員の奴らはどうしてか理由を教えてくれなかった」


マフィアⅠ「大方、大東のやり方についていけなくなったんだろうよ。

めんだくさい事してくれたよな、アイツは亜仁なのにも関わらず、特例で幹部にしてやってんだぞ!」


マフィアⅡ「やっぱり亜仁なんか、俺達の組に邪魔だったんだよ」


マフィアⅠ「おう兄弟、大東が死んだら、アイツんとこのシマを分け合おうぜ」


会話の内容からするに、大東をボスとするマフィア組織が仲間割れを始めたらしく、しかも内部抗争状態。



マフィアⅡ「そうシマといえば、組みを抜けた奴らが大東をあぶり出す為に、奴のシマで暴れ回ってるらしい。

どうやら一気に肩をつけるみたいだ」


マフィアⅠ「頭を殺れば戦争は終わる・・・考えたな」


マフィアⅡ「アイツが見つかって殺されるのも、時間の問題だな」


どうやら苦戦なのは大東側の方だが、分かっているつもりでも、マフィア達は何も分かっていない。



千草「(いや・・・大東はそんな簡単に殺される奴じゃない、残忍で計画性がある。

よくは知らないが、あの男には何か考えがある、それだけは分かる)」


大東が死ねば、千草の中にある希望の欲は完全に断ち切れる。

しかし、もし大東が死ねが、再び“明日の無い“毎日が始まる。


千草の運命を決める選択肢が迫られる。


生かすか死なすか、一体どちらが“マシ“なのか?








*大東組(ホワイト・ブラック会社の子組織)内部抗争の詳細

 

ティーマノッタで亜仁のみで構成されたマフィア組織、大東組が二つの派閥に分裂。

分裂時点では大東組が有力だったが、反旗した反大東派は早くにも大東組の直系幹部を襲撃。

自分達の縄張りで居所が掴めている構成員を無差別に射殺されていく。

反撃するすべもなく縄張りはほとんど奪われ、マフィアの活力となる隠し武器庫を抑えられた大東組。

街の至る所で抗争が起きているが、反乱組の一方的な攻撃で終わっており、報復合戦には発展していない。

肝心の頭領である大東清志郎、ナンバ−2の九西白斗は抗争が起きてから姿を見せず、雲隠れ状態が続いており、勢いに乗っている反乱組は血眼で大東を探している。

暗黒街の住人の大半が大東組の終わりを確信したが、街でたった1人、このままで終わらないことを予感していた。



その予感した女も自分が抗争に巻き込まれているとは、思いもしなかっただろう。



千草は粉雪が降り続ける、幻想的な深夜の帰り道、仕事で普段、客を魅了させる為に着ている和服。

赤い和傘を差し、降ってくる粉雪を凌ぎながら帰り道の雪原を踏んでいく。

ならず者しか住んでいない暗黒街では、女性の独り歩きは危険。

暴漢に襲われてもなんら不思議ではないが、千草自身も万全な対策を取っていた。

人目が少ない裏道を通るのが、彼女の普段の安全ルートであったが、今回だけは安全でもなく、危険だと想像していた闇職業にも、想像以上の相手だった。

人目の少ない小さな広場で、生存闘争が展開する。


千草は後ろから黒いロングコートートと顔を隠す様に黒い笠を被った2人が、自分を付け狙ってる事に気づいた。

そして前からは3人、雪の色と同じ、白いロングコートを着た、口ぼくろと坊主頭の亜仁女性。

その左右に後方と同じ、黒いロングコートと笠を被った2人。

後ろも前も日本刀を所持しており、自分を殺そうとしている殺気は丸出しだった。

特に真ん中で異彩を放つ女は絶対に逃さんとばかりの殺気、そして見覚えのある顔。


その亜仁女性は陸条會で大東達と共に居た、幹部の1人。

名前は“赤(せき)”


この女が大東の組織を割り、街中に銃声を響かせた張本人。



赤「ウチの顔に見覚えあるなー、無かったら初めましてや」


千草「覚えてようが覚えてないがどうでもいい、そこを通してくれない、家に帰って早く湯船に浸かりたいの」


赤「ちょい待ちや・・・お嬢ちゃんに聞きたい事があんねん」


千草「何が聞きたいんじゃ? 物騒な物をチラつかせて、人に物を尋ねる態度じゃねーだろ」


逃さんとばかりに囲まれた千草。

先見の明がある千草には、次の状況が読めていた。

相手が最初に問い、それが終われば本来の作業には入る。

「コイツらは、自分を切り刻んで豚の餌にすると」


赤「アンター、清士郎とどない関係なんや」


千草「清士郎? ・・・あー大東ね、別に大した関係じゃないよ、ただの同郷、友達でもなければ親しい真柄でも何でもない」


赤「嘘つくな・・・せやったら何でアンタみたいなガキに自分の組みを任せようとするんや!」



赤が大東に反乱した理由は、女王の座を長い間共に修羅場をくくり抜けてきた自分ではなく、ただの同郷なだけの千草に座らせたがったから。

しかも千草は大東の思いを拒否した、そうなれば諦めて自分に女王に選ぶと思っていたが、大東は結局千草に執着し続けた。

赤は大東にずっと振り向いて欲しかった、大東に特別な感情を抱いて欲しかった。

だが大東は、女の命と言われる髪が無い赤に性的感情を抱けなかった。

それならせめて、自分を女王に置いて、片時も話さずに自分に尽くして欲しかった。


赤は女の嫉妬で内部抗争を起こしたのだ。

それを聞いた千草は、大東の心情と胸中が理解出来た、どうして赤を女王にしたがらなかったのか。



千草「・・・」


赤「大東と九西の居所は分かった、アンタ達の生まれ故郷“陸条會”や。

大東組も今日でお終いや、大東の尽力な幹部も始末して、武器もウチらが横取りしたわ」


千草「あの狂犬が、簡単に駆除されると思うてか?」


赤「思うてへん、せやけどギャングやマフィアから同時攻撃されれば、さすがのアイツも人溜まりもないやろ」


千草「ギャング? どういう事だ?」


赤「ノークタ人のギャングに高いお小遣い渡したら、張り切ってウチの構成員と陸条會に向けてカチコミに向かったわ」


千草「・・・」


赤「20数人程度でな、100人は相手にせなあかん、あとはアンタだけ・・・ウチの手で殺したるは」


千草「・・・大東がアンタを女王にしたく無い気持ち、分かる気がするわ」


赤「あん?」


“““[ゾロリ・・ゾロリ・・]“““


千草「組みを割れるぐらいだから、アンタには人望も貫禄もあるんやろう。

でも王になるには必要な“物“を持ってへんわ」


かつてならず者をまとめていた千草だからこそ、王には絶対的な何かが必要なのだと分かる。


“““[ゾロリ・・ゾロリ・・ゾロリ・・]“““



千草「国はなー、例え小国でも一匹の生き物からしたら広いんや、受け皿が広くないアンタに、女王は務まらんのや!」


赤「エセな方言使うなや! 神経がピリつくねん!!」


千草「ホラな、狭いだろ?」


赤「!?」


“““[ゾロリ・・ゾロリ・・ゾロリ・・ゾロリ・・]“““


千草「ガキみたいな理由で組織を分裂させて、個人的な感情で戦争を起こし、仲間同士平気で殺し合い察せる様な奴に国なんか任せたくはないわ!!」


赤「殺せ!」



赤の合図と共に、千草の後ろからいつの間にか、忍足で接近していたマフィアに斬撃を喰らいそうになるが、斬られたのはマフィアの方だった。

マフィアの視界を和傘で全体に覆い、前方方向に囚われている瞬間、和傘に仕込んでいた小太刀、通称“仕込み刀”で1番最初に攻撃してきたマフィアの首を水平斬りする=1名死亡=。


武器など持っていないと油断したマフィア、首から噴水の如く大量出血して死んでいく仲間を見て立ち往生してしまったもう1人の構成員。

千草は最初の構成員から頂いた、血が付着した小太刀等を後方にいた構成員の目に飛ばして、目眩しをする。

効果はたったの1秒、しかし、接近戦の殺し合いではその1秒が運命を分ける。

不利な状況である千草が、その貴重な時間を逃すわけない。

目眩ししたマフィア構成員の胴体を刺す=死亡=、残り3人。



赤「・・・仕込みか」


千草「女を乱暴に扱う客もいるんでね、護身用さ」

千草は表情が硬くなり、体の全身の震えが止まらない。


千草は今宵初めて人を殺した、一瞬の最中2人、あと3人殺さなければならない。。

何の躊躇いもなく殺したが、謎の震えが止まらない。


赤「初めてかいな、人を殺めたのは?」


千草「・・・武者震いだよ(苦笑い)」


赤「明日までには治っとる・・・ウチもそうやった」


赤は刀を抜き、刃の先端を千草に向ける。


赤「せやけど今日で終いや、何か言い残したい事はあるか?」


千草「・・・アンタ、陸条會の人間じゃないよな」


赤「ああ・・・それがどないした?」


千草「もしそうだったら、この戦争はアンタの勝ちだった」


赤「何やと?」


千草「武器はないと言ったな? そんなわけないのさ、あの街は“宝の山“だ。

そんな事も知らずに、あの街でカチコミをしたなんて・・・哀れだ」



ティーマノッタの道で、女同士の戦いをしている最中、陸条會では男達の熱き戦いが切られていた

千草の言う通り、陸条會には武器が腐るほどある。

廃棄機関車まで捨てられる程のスラム街、粗大ゴミは今回のマフィア抗争で役に立つ。

軍が投棄した火器類、爆破物なども捨てられていた、そのせいで過去に子供まで巻き込む事故は何度も起きている。


反乱組が大東達がいるアジトに襲撃する際、車両移動はできない。

道も狭く廃棄物も多い、なのでゴミ山を盾にしながら忍びの様に夜襲を行う。

だが、地の利を活かした戦法を大東が一歩上だった。

反乱組の襲撃を読んでいた大東は、重機を使わず闇に乗じて1人ずつ敵を葬っていく。


九西は残った手下と共に自作した“トレビュシェット“で、大型廃棄物をアジトに接近してくる敵に

目掛けて投石。

ソファーや冷蔵庫などに敵は押し潰され圧死、暗闇などでどこから振り降りて来るか分からない。

上手く避けても廃棄物の中には、爆発物などを忍び込ませた。

恐怖により敵は混乱、最後まで仕事を成し遂げようとする者もいたが、放り投げて逃げ出すのもいた。

追い詰められていた大東組は、あっという間に形勢逆転する。


トレビュシェットを大東達に考案したのは“千草”。

千草は迷いながらも、大東を生かす決断した、つまりそちらを選んだと言うことは。


*トレビュシェット

中世ヨーロッパで使用された大型の投石兵器の一種。通常は城壁や要塞を攻撃するために用いられ、巨大な石や火の付いた物体を遠距離に投げることができた。


トレビュシェットの仕組みは、長い投擲アームと重り(カウンターウェイト)を使って物体を発射。重りが落ちる力を利用してアームを回転させ、その先端に取り付けられたスリングから投石を行う構造。これにより非常に大きな力が生まれ、数百メートルもの距離に石を飛ばすことができた。

トレビュシェットはカタパルトなど他の投石機と比較して、より正確で強力な兵器として重宝された。










千草「・・・反旗、地に落ちたり」


赤「・・・」


千草は極寒の中、折れた小太刀を片手に持ち、胸にサラシを巻き、上半身裸の状態。右耳から敵の受けた斬撃を喰らい、血が滝のように流れる。

冷たい血が飛びあう、演劇の舞台となった広場は地の海となっていた。

そして“赤“の惨殺死体の前に立ち尽くし、血だらけで死んでいる赤に本心を告げる。



千草「・・・アタイにとって独立国家なんてどうでもいいのさ、王の座にもこの国の未来にも興味はないよ。

ただあの男が言ったように、この街には終わりが来る・・・赤・・・アタイの事がそんなに憎かったのかい?」




マフィア抗争終結。


*陸条會・大東組のアジト 深夜


大東一派のアジトでは、返り討ちにされた黒ギャングと茶色マフィア達の死体が多く横たわっていた。

大東・九西は返り血を全身に浴びているが、自分達の血は体から一滴も流れていない。

分裂前は500人もいた大東組も、今回の抗争で20人まで激減。

今後の保身の為に、九西は敵側を皆殺しにする案を提案、大東は承諾。


カチコミをした元仲間とノークタ人ギャングの生き残りを、部屋の掃除をする感覚で順番に粛清していく、冷酷非道の九西。

何の躊躇いもなく、命乞いをする敵を拳銃で、頭を撃ち抜いていく。


最後に残った、茶髪のノークタだけは千草が駆け付けて事でなきを得る。



九西「今後の為にも、1人も生かしてはいけないと思いましてね・・・残念ながら」


人間性や状況からして、九西は“お願い“は聞き入れない、なら。


千草「・・・女王陛下の命令に逆らうのか?」


九西「お願いなら聞き入れないが・・・命令なら従う」



今回の戦争で残ったのは、大東・九西・千草・捕虜1名・数名の構成員。


大東「・・・俺達の女王になると?」


千草「アンタらのせいで、大事な商売顔に傷を負っちまった。

もう売春活動は続けられない、こうなったら独賊として生きていくしかないだろ」


九西「ようやく決死しましたか」


千草「・・・アンタ達はまだ信用してない、アタイを利用するつもりでいるんだろうけど、アタイがアンタ達を手取り足取り使って、最後は弾除けの駒として利用してやる」


大東「・・・利用されてない人間なんて、この世にはいない」



千草の独立目的:居場所



耳から血を流しながら、勝ち取った女王の椅子に座り、一息つく千草。


九西「どんな気分です? 王の椅子に座るのは?」


千草「・・・正直、まだ実感は湧かないのが感想」


大東「やる事は山程ある、役職を決めて産業を発展させる事と、次に国の名前だ」


千草「・・・名前はもう考えてある」


九西「どんな?」



千草は悲しげに微笑んだ表情で、ゆっくりと口から国名を吐き出す。



千草「・・・“アスクビリオス教国”・・・」



血生臭いマフィア抗争は終結したが、この戦争は序章にもならない。

本当の始まりはこれから始まり、過酷を極めていく。


まだまだ女王蜂の采配は終わらない。









名を失ったスラム街で起きた悪党抗争が終結してから、数週間が経った。


千草竜心を女王とした、独立国家“アスクビリオス教国”は始まりの領土と国名は確保及び名付け終わったが、まだ建国は完成したわけじゃない。

産業を始めて国を築いていく、重要な公職者を決めていかなければならない。


現在、席に埋まっているのは、女王陛下:千草竜心 産業戦略大臣:大東清士郎 騎士団長:???。

あと埋める空席は、首相・参謀総長・財務大臣・技術大臣など。

千草は手っ取り早く席を埋める為に、かつての仲間達を再結成させるつもりでいる。


ビリオス共和国だった頃のまだ再会していない仲間を探すため、大東の顔の広さ、ティーマノッタの名の知れた情報屋に依頼して、現在地が判明したら首相以外に招集状を送る。

肝心の首相は目の届く距離にいるので、直接会いに行って勧誘する、時間帯は早朝。



亀太「お前おっさんに抱かれすぎたせいで、ついに頭が飛んじまったか?」


千草は遠回しに伝えず、独賊になった事を隠さずに話した。

おかしく思われても、なんら違和感はない、むしろ亀太からしたら自然の反応。

目の下にクマが出来、亀太の表情は疲れ切っている事を感じさせ、朝っぱらからさらに追い打ちを活けるように大雑把な会話内容を聞かせる。


千草「そうかもな、いや・・・大東に抱かれてからおかしくなっちまったのかもな」


亀太「大東・・・大東って! まさかアイツと連んでるのか!」


千草「産業大臣として、今はアタイの良きパートナーさ」


亀太「ゾッコンだな・・・バカ、あんな奴と一緒に居たら、命が幾つ合っても足りねーぞ」


千草「・・・」


亀太「悪いことは言わねー、独賊なんかやめとけ」


千草「・・・違うよ、カメ」

亀太「?」


千草「アイツと出会ってから・・・明日を生きられるようになった」


亀太は、千草から今までとは違う何かを感じた、危険な何かを。


亀太「・・・そうか、勝手にしろよ・・・お前らが死のうが生きようが、俺にはどうでもいい事だ」


亀太は店周りの雪かき掃除を終わらせ、千草に別れを言わず、自分が雇われている店に戻る。



千草の誘いを断りはしたが、亀太は一瞬だけ心が動かされそうになった。

亀太は休憩室でソファーに座り、グラスに注いだホルスを飲みならが、一枚の白黒写真を眺める。

その写真とは、陸条會で独立国家ごっこをしていた時の仲間の集合写真。

ビリオス共和国を建国した日の記念すべき1日として、アスク先生がカメラを持ってきて、撮ってくれた。

基地として使っていた廃棄機関車を背景に集合、真ん中の位置には千草・その左右には紙氏と紙絵が写っており、そして亀太は屋根の上に登って国旗を持って立っていた。

独立国家ごっこをしていた時の亀太の役職は首相。

自分の役目は、国旗を守る最後の砦として、体を張って奮闘すること。

亀太もあの頃が1番楽しく、今よりも生き甲斐を感じ、“幸せ“を感じていた。

大人の世界は過酷、どいつもこいつもがくだらない暇人で、そしてその暇人共は暇つぶしの遊び道具を探す。

ティーマノッタのチンピラやギャングは、そんな奴らばかりだった。


スラムを去ってから亀太は、大人になりきれない暇人共の暇つぶしの道具にされていた。

暗黒街の大物は、始まりは小物からだが、無駄を省き、得をする事だけをしてのし上がり、いずれ裏社会で名が知れ渡る様になる。

それは全ての住人に限った話じゃない、小物のまま終わりを迎える住人もいる。

貧乏人とは暇人である事、小物とは小物好きを好む者。


そんな亀太も暇人、だが子供の頃に首相を任されていた事だけあって、小物な道具は求めなかった。

しかし、そんな亀太にも、相性のある道具と出会う。

その道具とは、ノークタ人女性の逃亡兵。

戦場から逃亡して、ティーマノッタに辿り着き、傷を負っていた所、心の傷を負っていた亀太と出会い、傷物同士の恋愛に発展する。

兵士が王国に宣誓した以上、敵に背中を向けて逃亡する事は許されない。

逃亡兵や脱走兵は、法の下で死罪となる。

そんな亀太は、逃亡兵を匿い、愛を交わし結婚、妻として迎え入れる。

だが、その愛は終わろうとしていた。


妻は流行病に罹り、病気が発症した事で家で寝たきり状態となる。

高額な治療費は払えない、妻が死ぬのをそばで待ち続けるしかない。

もし妻が死ねば、自分はまた1人になり、再び“孤独“が待っている。

そんな時に支えとなるのは、本物仲間と言える存在かも知れない、たとえ独賊でも。



亀太は仕事を終え、夜になった暗黒街の道を通って帰る。

帰る途中、娼婦や麻薬の売人に呼び止められたが、構う事なく家路を急いだ。

病を患い家で寝ている妻と、残り限られた時間を過ごしたかった。

愛妻家の亀太だったが、帰り道の途中の広場で小物家の奴らに足止めを喰らう。


チンピラⅠ「ようカメ、どこに行くんだ?」


亀太「・・・家に帰るだけだ」


ホワイト・ブラック会社の4名のマフィアチンピラに絡まれてしまう。

このチンピラ達は、暇があれば自分よりも程度が低い奴を見つけては金を恵んで貰う。

逆らえば、極寒の夜で服を脱がされ、半殺しにされる。

例えチンピラと言えど、ティーマノッタの顔でもあるホワイト・ブラック会社に楯突けば、職を失うだけでは済まない。


亀太「・・・金は給料日前だから無い」


チンピラⅠ「0では無いだろ、あるぶんだけ寄越せばいいんだよ」


亀太「(街を蝕む吸血鬼共め)」


家で帰りを待つ妻の為に食材を買い、美味しい料理を振る舞うことさえ出来ないのも、この街に吸血鬼が溢れかえっていたからだ。


チンピラⅠ「なんだその目は? 俺達はホワイト・ブラック会社だぜ」


アラキ「そいつは俺達の副頭領だぜ、チンピラ」


チンピラ達の背後にアラキが立っていた。


亀太「アラキか?」


チンピラ達はアラキに集中する。

チンピラⅠは気付いてないが、チンピラⅡはアラキの茶髪で危険を察知する。


チンピラⅠ「誰だテメーは? 俺達がホワイト・ブラック会社のモンだと分かって茶々入れてんのか?」


チンピラ「よせよ、この男は・・・この人は、大東組の切り込み隊長“アラキ”さんだ!」


チンピラⅠ「!?」


アラキ「腹が減ってんだ、飯代くれよ」


チンピラⅠ「いやあの・・・俺達まだ収穫0でして・・・(震え声)」


アラキ「所持金0じゃないだろ・・・0なら売れそうなのを寄越せ」



チンピラ達は散々な思いをして、撤退。

アラキと亀太は3年ぶりの対面を果たし、再会話の弾みネタとなる、“今”と“昔”を語り合う。

広場のベンチで2人は座り、アラキの奢りで温かいスープを体に含む。

最初にアラキから今を語る。


アラキは陸条會を去ってから、他のスラムでギャングとして生きてきた。

しかし、不器用で協調性も欠けていて、気の合う仲間と出会えず、ギャングからマフィアの鉄砲玉となる。

唯一の取り柄である、戦闘を活かす機会はそうそうに来なかったが、抗争となれば真っ先に乱戦の最中を飛び込んで、敵を根こそぎ倒して来た。

数週間前に、何も考えず流れに乗じて自身の生まれ故郷である陸条會を舞台に、大東組と大抗争を繰り広げた末、敗北。

カチコミに参加した自分以外の構成員は殺され、アラキだけは生かされた。

あの時にこんな背景があった。


九西「お前で最後の1人だ」

アラキ「無駄かもしれないけど、贅沢を言っていいか?」

九西「言うだけ言ってみろ、希望はあるかもしれん」

アラキ「殺してもいい、でも最後に甘い物を食べさせてくれ」

九西「ダメ(銃を向ける)」

アラキ「ダメなのかよ!」


千草「あれ? アラキじゃん」

アラキ「千草?」


ノークタ人の髪の色は長髪の黒だが、混血のアラキは髪の色が茶色なので助かった。


亀太「じゃあ・・・もしかしてお前が長髪の黒だったら、今頃は死んでたってことか?」


アラキ「こう言う場合はなんて言うんだ、不幸中の幸いか?」


亀太「・・・それで今は何を?」


アラキ「命を助けて貰った借りとして、アスクビリオス教国の“騎士団長”を務めている」


亀太「藪から棒に突っ込む癖は、治ってねーんだな」


アラキ「俺は戦闘タイプだからなー」



アラキの独立目的:戦闘



アラキはギャングからマフィアになり、マフィアから独賊となった。

亀太は既に千草からの誘いを断っていたが、それを知った上でアラキから再び誘われた。

それでも亀太は「気が乗らない」と言う理由で断る。

アラキは亀太の家庭事情も知っていた。


アラキ「・・・女房さん、病気なんだろ?」


亀太「・・・うん」


アラキ「女王からお前にと頼まれてな」


アラキは千草から預かった、200万ゼンの大金札束を亀太に渡す。


アラキ「これで、女房さんの病気を治せとよ」


亀太「・・・これで俺を誘惑しろと、千草から頼まれたのか?」


アラキは突然、亀太の胸ぐらを掴み怒声を浴びせる。


アラキ「テメー、今なんつった!」


亀太「!?」


アラキ「その金は、千草が情としてお前に渡すもんだろ! アイツが仲間を金でチラつかせて、危険な綱渡りをさせる様な奴に見えるか!」


亀太「・・・」


アラキ「お前を本気で必要としてるから仲間として迎え入れたい、でも本気で“仲間の仲間“を助けたいと言う気持ちがある・・・そんな事も忘れちまったのか、カメ」


アラキの言う通りだ、千草はそんな女じゃない、千草だけじゃない、他のメンバーも。

ヒエラルキー下の組織体制に嫌気がさした、だからこそ何度も亡命をして、本当の新しい仲間を作った。

独立国家ごっこをしていた時の亀太は、1番の年長者で誰よりも仲間思いだったはず。

だが地獄を見すぎたせいで、いつの間にか友や信頼を失い、代わりに疑いを抱くようになってしまった。


仲間達からの熱き情により、過去に“大物“だった自分の魂を取り戻す事が出来た亀太だったが、




亀太「どういう事だよ、なんでだよ!!(怒り震える)」


医者「すまない・・・もう手遅れだ」


亀太は200万ゼンと病気の妻を病院に連れて行った。

ティーマノッタでは病院といえば闇医者、表医者はたった一件しかない。

小さな病院だが、安い料金で治療をしてくれる、街で唯一の善良な医者に妻を診て貰った。

しかし、金と薬さえあれば治る妻の病気に、なぜか下を向くハミナス人の医者。


亀太「薬さえあれば、治せるんだろ!」


医者「そうだ、薬を投与すれば、容態は回復していく。

でも病状が悪化し続けている・・・もってあと2、3ヶ月って所だ」


亀太は医者の言葉に理解が出来ず、冷静さを忘れて、思い違いで医者の胸ぐらを掴む。


亀太「全く意味が分かんねーよ! アンタあれか? 俺達が亜仁で、ノークタ人だから病気は治す資格はねーて言ってんのか! ふざけんなよ、同じ人間だろ、ちゃんと治療してくれよ!」


医者「バカを言うな! 私は医者だぞ! どんな患者だろうと差別はせん!(腕を払いのける)」


亀太「じゃあなんでだよ! 分かる様に説明してくれ!」


医者「薬が届かないんだよ!!」


亀太「!?」


医者「王国各地で紛争が起きてるせいで、疫病が蔓延している、その疫病に真っ先に罹るのは軍人だ!・・・この国では軍人が最優先される」


亀太「・・・軍人?」


亀太は“軍人“というキーワードに頭の中で引っ掛かった。

自分の妻は逃亡兵でセラディア王国の兵士だった。

妻が疫病に感染したのは、妻が疫病の原因となる戦場に居たせい。

それに気づいた亀太は、知らずの内に夫婦揃って戦争の被害者となっていたのだ。



医者「それだけじゃない、政府からしたらこの街は厄介もそのもの、薬の配給はどの区域よりも後回しにされるはずだ」


亀太「・・・でも薬はあるんだろ? 治せる薬が?」


医者「ああ、だがまだだいぶ先だ、それまだ体が持たないだろ」


亀太は大量の涙を流し、顔を崩壊させながら、膝をつきながら医者に懇願する。


亀太「頼むよ・・・金はあるんだよ・・・妻を助けてくれ・・・薬をなんとしても手に入れてくれよ・・・金はいくらでも出すからよ!!」


医者「200万ゼン以上あるのか?」


亀太「・・・ああ」


本当は無いが、裏稼業で高収入を得ている千草から、上乗せしてもらう案を頭の中ですぐに思いついた。

自分でも情けないつもりだったが、妻が助からないと諦めていたのを、再び希望が咲き、思考判断が乱れてしまった。


医者「ならこんな街じゃなく、大都会の病院に迎え、そこの欲に溺れた医者になら金次第で治療してくれるはずだ」


亀太「・・・!!」


医者「どうした?」


金は手に入れても、都会の病院を目指すのは容易な事ではなかった。

妻は軍の逃亡兵、逃亡兵は国から独賊として認定され、王国各地の都会で賞金を懸けられた指名手配犯となる。

過去に逃亡兵や脱走兵が独賊となるケースが多く、その弾圧対策として指名手配する事が決定された。

賞金首の妻はティーマノッタからは出られない、でも病気を治すには都会の病院に行かなければならない。

逃亡犯や脱走兵は他にもいる、もしかしたらバレないかもしれない、一か八か、可能性は五分五分だった。

亀太と女房は、支離滅裂の状況に立たされていた。







二ヶ月後。


千草が花とワイン瓶(ホルス)を持って、亀太夫妻が住んでいる、鉄筋コンクリート集合住宅に足を運ぶ。

そろそろ亀太の妻も病気が治り、容態が回復していると思い、祝いをするつもでいた。

亀太の部屋の玄関ドアを3回ノックする。

数十秒後に、少しだけドアがゆっくりと開き、その隙間から亀太の顔が見える。


千草「おうよ!」

亀太「・・・よう」


千草「花とホルス持ってきた、奥さんの復活祝いしようぜー」


亀太「・・・ありがとう、よかったら上がってくれ、紅茶出すから」


千草は亀太の表情に違和感を覚える。

朝早くから店の前で雪かきをしてる時よりも疲れが溜まってみえ、ろくに睡眠を取れていない様子が感じられる。

あと亀太からわずかに、“涙“の匂いだした。



亀太がリビングのテーブルで紅茶をコップに注いでいる時に、千草は恐る恐る妻はどうなったのか聞く。


千草「奥さんは?」


亀太「・・・ダメだった」


千草「えっ?」


亀太「二日前に死んだよ」


千草「・・・どうして?」


亀太は医者とのやり取り、妻の最後を話した。


妻は最後まで危険を冒して都会の病院に行く事を拒んだ。

亀太は大金を得た手段を妻に正直に話した。

それを聞いた妻は完全に自分の運命を悟り、そして独賊の哀れみの情など受け取りたくないと言い始めた。

国中を戦火の海にして、疫病を蔓延させ自分の人生に毒を塗らせた独賊と軍隊。

妻は軍を恨み、独賊を憎み、この国に怨念を残したままこの世を去った。

亀太はその事を、目の前にいる独賊の千草に聞かせる。

千草は申し訳なさそうに、頭を下げる。


千草「すまない」


亀太「お前のせいじゃないだろ」


亀太は椅子から立ち上がり、窓際の方に向かう。


亀太「悪いのはこの国のやり方であって、生半可な気持ちで軍人になった女房、そして無力の俺せいだ・・・この話を敢えてしたのは、お前にもう一度聞いておきたい事があるからだ」


千草「なんだ?」


亀太「本気で、この王国に喧嘩を売るつもりなのか?」


千草「・・・そうなるな」


亀太「独賊にも色んなタイプがある、本気の思想革命を目指す独賊、革命といった名ばかりの金集めをする下劣な独賊・・・そうだ、金を返す」


亀太は結局、一度も使わなかった200万ゼンを千草の手前に置く。

そしてこの金を前にして、真剣な表情で千草の覚悟を聞く。


亀太「この200万の札束は、“犠牲“のうえで積み重なっている、違うか?」


千草「そうだな」


亀太「・・・お前達はこれから多くの犠牲を背中に乗せて独立国家を目指す、その犠牲を背負えるか?」


千草「・・・カメ、お前達じゃない・・・個だ」


亀太「?」



千草は語り始める。

自分達は冷気の環境でしか生きられない、緑の蜂“ワニグマン”に似ていると。

個体によって姿や行動性も違う、特殊な緑の昆虫。

彼らは巣の中で国を築き生きている、なぜ多様でありながら生きてられるのか?



千草「大東もアラキも、アタイも利害が一致してるだけの関係、思想には食い違いがある。

でもそれがアタイらの国では合ってた・・・アタイらの国旗に描かれていた"緑の蜂"を思い出してみなよ、アタイらはそれぞれ姿形、行動性も違う集合体、それなのにも関わらず国として成り立ってた」


亀太「・・・」


千草「私はただ“巣“があれば十分、他は知らない」


亀太「・・・なるほ・・・ど」


千草がこれからする事に納得した亀太。

千草は紅茶を飲み終え、部屋を出る前に最後に亀太に伝える。


千草「そうだ、帰る前に伝えとく、大半のメンバーの居所が分かった」


亀太「・・・早いな」


千草「掴めた仲間には招集状を送った・・・明日の夜、アタイは陸条會の“月の木“で皆んなを待つ」

*月の木、光のない陸条會で唯一街灯があった場所で、住民達から月の木と呼ばれていた。


亀太「・・・俺に独賊になれと?」


千草「いいや・・・今話したのは、単なる独賊の独り言さ」


アスクビリオス教国の冷たい夜、照らされた“月の木“で、離れ離れになった仲間を待つ女王。

3年前の遊びとは違う、本気の独立戦争をこれから始める。

始める以上、古参メンバーから死人が出る可能性は大、最悪の場合は全死。

千草は大事な仲間を死なせてでも、大事な仲間とセラディア王国から独立を目指したかった。


白い息を吐きながら、上を見上げて暇つぶしに満月を見ていると、雪道を踏む音がかすかに聞こえてくる。

踏む音が大きくなってきて、自分の方に誰かが近づいてくるのが分かった。


聞こえた方を目を向けると、黒コート姿の亀太が立っていた。


千草「・・・おうよ」

亀太「・・・よう」

千草「・・・」

亀太「・・・どうした?」


千草「・・・まさかアンタが一番乗りだとは思わなかった」


亀太「勘違いするなよ、俺はお前らの思想には興味ない。

ただ“暇“だから来た、それだけだ」


亀太の独立目的:暇つぶし



千草「理由は何でもいい、アンタが来てくれただけで助かるよ」


亀太「頼りにされている首相は嬉しいねー」


千草「これでアラキに1万ゼン渡さなくて済む」


千草はアラキと、亀太が来るか来ないかの賭け勝負をしていた。


亀太「・・・やっぱり帰ろうかな」


??「アタシは来ると思ったかい? 千草」


2人の背後から女の声が聞こえた。

後ろを振り向くと、黒コート姿でシルクハットを被り、腰まで伸ばした銀色長髪で長身、丸サングラスをかけた、女性が居た。


千草「・・・どちら様」


??「なっ! 親友を忘れるなんて、撃ち殺してやろうか」


その女性は、顔を判別出来るように、サングラスを取った。


千草「・・・紙氏!」


紙氏「久しぶりだね、2人共(笑顔)」


亀太「!!」


千草「凄い髪が伸びたね、紙氏!」


亀太「いやヅラだろ! こんな長い髪の女は居ねーよ、ていうか何で銀髪!」


紙氏は懐から拳銃を取り出し、憤怒の表情で亀太の顔面に銃口を突きつける。


紙氏「ヅラって言うな、説明はしてやるから」


亀太「・・・ハイ(無意識に手を上げる)」



紙氏はスラム街を出てから、妹も養う為に殺し有りの用心棒となる。

2丁拳銃の腕前をマフィア・警察団・自警団・娼館・カジノ店、第弐氷団内の様々な組織に買われ、フリーの用心棒として生きてきた。

警護などの重要な仕事をこなしてきたが、一つの巣に留まらず、渡り鳥である事が災いして闇社会の逆鱗に触れてしまう。

多くの組織を敵を回してしまい、遂に賞金首を掛けられてしまう。

追われる立場になり、頼れる人もいない、どこに逃げていいのか見当がつかない時、幸運が舞い降りた。



紙氏の独立目的:逃げ場



千草「紙絵は?」


紙氏「あの子は今・・・凛太郎とお菓子を作ってる」


亀太「凛太郎?」


紙氏「有り金全部渡して、凛太郎に任せた、彼なら妹を安心して任せられるから」


千草「そう・・・それじゃー、凛太郎と紙絵は・・・」


紙氏「ごめん、千草・・・あの子には、アタシみたく汚れて欲しくないの」


千草「謝らないでよ、むしろお礼を言いたいぐらいなんだから」


紙氏「・・・それにしても千草、美人になったねー」


千草「まあね!(敬礼)」


紙氏「娼婦やってたんだって、だいぶ繁盛したでしょ?」


??「何ー!! お嬢は立ちんぼやってたのー、私なんて誰にも買ってくれなかったし、店にはお箱払いされるしー、お嬢と私の違いは何!」


図太い女の声が聞こえた方向に目を向くと、暗闇から三つの足音が聞こえ、そして見えてきた。


千草「下古! それに六角も!」

紙氏の時とは違い、2人はすぐに誰か分かった

その判別方法は、肥満。


紙氏「ちょっと痩せたんじゃない、下古!」


下古「えっ! 嘘! やっぱり分かるー!」


亀太「ああ、ちょっと痩せたと思うよ、ちょっとだけだとデブである事に変わりはないけどな」


六角「みんな久しぶり」


千草「来てくれてありがとう六角・・・もしかして2人共結婚したの?」


下古「冗談キツいってお嬢、私は六角の家に居候してただけ。

でもそろそろ金銭的部分が険しくなってきてねー」


六角「金持ちになりたい」


下古・六角の独立目的:億万長者(六角は下古と一緒にいたいから)



千草は下古と六角の後ろに居る、女の子の頭を撫でる。


千草「来てくれてありがとね、“咲“」


下古・六角「!?」


下古「えっ咲!? いつの間に、アンタ居たの!!」


亀太「気が付かなかったんかい!」


六角「全然」


紙氏「一緒に来たんじゃないの!」



咲の独立目的:???


3年前と変わらず、無口で何を考えてるか分からない不思議ちゃん。

それでも千草は、咲が元気で無事に居てくれたことを喜ぶ。

千草は、赤いマフラーを咲の首に巻いてあげる。



昔の仲間が揃い喜び合うが、高確率で来ないかつての仲間と、絶対に来れない仲間が1人いる。


下古「甲一は?」


紙氏「アイツは来ないだろ、賭けてもいい」


亀太「・・・千草、ハイノラはどうする?」


ハイノラの名前が出た瞬間、全員の表情曇り、空気が沈む。


下古「あれは・・・もう出てこれないだろ」


千草「・・・時が出来たら、迎えに行く、今は自分達のやるべき事をやろう」


亀太「アイツのためにもな」


千草「これ以上は待っても、もう誰も来ない、アジトはこっちだ」



全員、千草の背中について行く。


千草「今日は何日で何曜日だっけ?」


亀太「えーと・・・12日で水曜日」


12日の水曜日と聞いた瞬間、千草は足を止める。


下古「・・・不吉の日だね」


千草「・・・アタイらの建国記念日は覚えやすくていいじゃないか」


28歳の男「俺達の故郷が失った日も、12日の水曜日だったな」


紙氏「そうだ、あの日も」


亀太「・・・そうだったな」


下古・六角「・・・」


28歳の男「失った日ではある、でも再び仲間が集まったこの日は、取り戻す日にしようぜ!」


千草「そうだ、取り戻すんだ!・・・てかお前誰!?」


亀太「ほんとだよ、誰だお前! 何しれっと俺達の輪に入ってんだ!」


下古「スパイだ!」


ボサボサヘアーのホフヌング人男が前触れもなく現れた。


28歳の男「お前ら・・・俺の顔を忘れたのか?(悲しむ)」


紙氏「・・・アンタ・・・アンタは!」


紙氏だけは思い出した。

28歳の男「思い出してくれたか!」


紙氏「ウンコだ!」


シーマ「ウンコを掛けたのはオメーらだろ!」



シーマの独立目的:定職



亀太「お前は敵国だったろー、なんで招集されてんだ」


シーマ「硬いことを言うなよ首相!」


千草「亀太、味方なら頼もしい存在だよ!」


皆のスタート地点は同じでも、たどり着こうとしている場所は違う。

でもそれでも、再びこの清冽の地に帰ってきた、結局は帰ってきた、そして今も一緒にいる。


城の3階の窓から、ビリオス国のメンバーが和気あいあいと、こちらに向かってくるのを目視する、大東と九西。


九西「楽しそうだな・・・奴ら」


大東「・・・」


大東は部屋を後にしようとする。


九西「・・・お前は嬉しそうだな」


大東「別に・・・そういうキミは?」


九西「・・・嬉しいかもな」







➖12月12日水曜日 午後23時46分➖

  アスクビリオス教国 建国








≡追悼≡


アスク×ビリオス先生へ、千草より。

アスク先生、許してください、嫌いにならないでください。

先生の意に反する行為をした、私達の決断に。

もうこうするしかないんです、私達は先生みたくは生きられない。

生まれた場所も、育った場所も、流れている血も、何もかもが貴方とは違う。

スラムで幸せだった一時は、先生の胸に飛び込んだ瞬間、信頼できる仲間達と国を守った時、あの頃の時間が忘れられないんです。

動機は違えど私達が目指す所は、少しの間だけの“幸せ“な居場所。

行けるところまで行く、もしかしたら早い内に先生の所に行くかもしれません。

独賊になった私でも、先生は暖かく抱きしめてくれたらいいなー、泥まみれになった私を抱き止めてくれた様に。

先生との約束を破った私にそんな資格はないかもしれないけど、・・・だから私は女王としての責任を取る事にします。


“アスクビリオス教国の女王は生涯、お菓子を食べる事を禁ずる。“




大国内で、子供の頃から続いていた、一つの小国が生まれた。

そしてもう一つの“異質軍団“が作られる。

後にこの軍団とアスクビリオス教国は、壮絶な死闘を繰り広げる。




*第肆氷団・南部方面 軍事監獄 深夜


監獄から30メートルぐらい離れた場所(広場)で、各地の監獄から移送してきた重罪人50名程を横1列に整列させる。

運ばれてきた死刑囚・終身刑囚は全員、裸足で雪の地面に立たされ、顔は“罪”と書かれた面布で隠され、逃亡防止のため足伽・手錠・腰縄を隣にいる囚人と連結して拘束されている。


軍用トラックの荷台から屈強な軍人達が拘束している囚人達を下車させ、せかす様に整列させる。

裸足で下車させられた囚人達は足をばたつかせ、片足立ちを交互に変える者もいる。


軍人達の合図言葉。

A兵「下車!」運転手、大声。

B兵「下車!」トラックの中にいる。

C兵「下車!」後あおり止めを外す。

女兵「下車!」後あおり止めを外す。


視界が写らない囚人達は困惑する。


B兵「早く降りろ、コラー!」怒声。

女兵「降りろ!」


荷台から降りる囚人達は軍人達の兵士の指示で整列する。

行動が遅い囚人達を蹴りや小銃のストックで叩きつける。


A「並べー!」怒声。

B「もたもたしてんじゃねーよ!」怒声。



暖かいホットココア入ったマグカップを手に持ち、若き青年が面布を取るよう囚人達に指示する。


青年「全員、布面を取りなさい」大声。


布面を取った囚人達は、視界に軍事監獄が写る。

青年は左手にリボルバー拳銃をぶら下げる。

手に持っているリボルバーを上空に目掛けて撃つ。


突然の発砲にビクつく囚人達。


青年「ハイ、ちゅもーく!」陽気な声。


青年「僕は誰だと思いますかー、分かる人?」笑顔で手を挙げる。


先頭の端っこにいる囚人の一人が、若き青年の正体に気付く。


囚人A「イーナ・・・ナヴァルダ?」震え声。


イーナ「ハイ正解、キミ達の人生に十字架の烙印を押した、警察管理長でーす、次に、あの建物は何だと思いますかー、分かる人?」


イーナは拳銃を軍事監獄に向ける。

イーナの問題に誰も答えられない。



イーナ「アレはキミ達の新しい住処、“スパークリング戦犯監獄“、この国で唯一、誰の脱獄を許していない監獄・・・こう呼ばれている“地獄島”!」


地獄島と聞いて、囚人達は聞き覚えがあるため怯えだす。


囚人B「オイ! ちょっと待てよ、俺はあんなムショに入れられる程の罪は犯した覚えはねーぞ!」


囚人C「俺もだ! 女犯しと放火だけで、何であんな所にブチ込まれなきゃいけねーんだ!」


イーナ「いい質問ですねー!」


イーナは嬉しそうな顔で質問に答えようとするが、話を遮る形で屈強の軍人が囚人達に怒号。


イーナ「実はね、キミた・・」


A兵「誰が許可無く発言していいと言った! ゴミクズの分際で無礼であるぞ!(怒声)」


イーナ「・・・ありがとう、もういいよ(真顔)」


A兵は頭を下げて、二歩下がる。


イーナ「えーそれでね、まず何から話そうか、とりあえずこれだけは言っとく」


満面だった笑みを消し、真剣な眼差しで囚人達に脅しとも言える条件を出す。


イーナ「兵士になるか、生死の采配を神に祈るか選べ」


囚人達は意味不明な言葉にざわつくが、“生死”には敏感だった。



イーナは隠さずに囚人達の置かれている状況を話した。

セラディア王国の第弐氷団は、治安がどの氷団よりも荒れており、他所の国から強力な武器を密輸して重武装の独立国家や雲隠れしている凶悪マフィア組織が多数存在しており、紛争や暴動が絶えない、時には独立国家同士で衝突する事もある。


年々、軍の入隊希望者が激減している、それを補う為に政府は罪人に軍人の特権を与えるチャンスを持たせた。



イーナはコーヒーを飲み、落ち着きのないようウロウロする。


イーナ「紛争だらけのこの国で罪を犯した囚人に飯を食わせる余裕があるのだろうか? 戦争で税金は高騰するばかり、働かざる者、食うべからず、条件を拒む者は第弐氷団の監獄に移送するよ・・・“戦場“のど真ん中の監獄にね!」


囚人達は恐怖の余りざわつく。



イーナは軍人達に宣誓書を渡す合図をする。

軍人達は並んでいる囚人達に書類を素早く渡していく。

イーナは、その書類が何なのかを説明する。



イーナ「それは忠誠の誓いだ、どうだね、軍に入隊して国の為に独賊を一網打尽にしないか?

自分の身は自分で守れる、これは四三一部隊に入る契約書だ!」


囚人D「ふざけんな、こんなの死刑と同じだろ!」怒声。


囚人E「そうじゃ! ウチらを敵の弾除けにするつもりか!」怒声。


イーナは囚人達の心を揺さぶるため、褒美を話そうとしたが、またしても発言の途中で、A兵が話を遮る。


イーナ「軍人に褒美は・・」


A兵「黙らんか!!」


A兵は耐えかね、正面の囚人を蹴り飛ばす。


A兵「立場をわきまえろと言ったはずだゴミ共が!」


イーナは手に持っているマグカップをA兵の顔面に殴打する。


A兵「いいかー、これはイーナ=ナヴァルダ官長の最後の恩情だぞ、貴様らは官長の優しさが・・バッ!?」


A兵は左の頬を抑えながら、崩れ落ちて片膝を地面に着く。


冷たい目・冷めた声でA兵を蔑む。

イーナ「お前こそ空気を読め、劣兵れっぺい」


A兵「!・・・?」


イーナ「・・・もう優しく説明するのが面倒くさい、一度しか言わないからよく聞け」


イーナは再び、銃声を鳴り響かせる。



イーナ「“女王様“に忠誠を誓え! 軍に入隊して命を捧げろ!! 軍人の技量を高めろ!!!」


イーナ「そうすれば、人間としての特権を与える、迎えるべき敵が来るまでの間、外で好きなだけ遊ばしてあげる!」


囚人達は“外“という言葉に反応して、ざわつく。


囚人F「外? 外に出ていいの?」


イーナ「もちろん、軍人に褒美は当然の事だろ?」


イーナはポケットから黒ペン一本を取り出し、頭上に上げて囚人達に見せつける。


イーナ「この一本のペンで、望む物は全て手に入る、暖かい飯、痺れる様な酒、溜まった疲れをふっと飛ばす温かい湯船」


イーナは言葉巧みに長く檻の中にいた囚人達を欲情していき、それに乗る形で囚人達も外にある娯楽に興奮していく。


そんな囚人達の中、顔が痣だらけで銀髪、年齢は10代前半ぐらいの少年囚人だけは、呆然と夜空を見上げている。



イーナは女囚人・終張弓絵と目が合い、最後の揺さぶりを思いつく。


イーナ「・・・女も」笑顔。


“女”という言葉に囚人達は感情が爆発、腹を空かせた獣如くの囚人達は、イーナが手に持っているペンを求める。

突然、立場を忘れて獰猛化する囚人達を軍人達は落ち着かせる様に制止する。


囚人達

「なってやる、軍人になってやるぜ!!」

「筆をよこせ、俺だ、俺が俺が!!」

「出してくれ、早くここから出してくれ!」

「何でもするよ、何でもするよ!!」

「死ぬ前に贅沢して死にてー!!」

「カレーライス、ビール、まんじゅう・・・おんなー!!」

「母ちゃん、もうすぐ会えるぜー!!」


むさくるしい密集の中、ハミナス人の少年囚人兵・“ハイノラ“だけは変わらず夜空を見上げ、白い息を吐きながら流れ星が流れるかを確認する。


ハイノラ「・・・」無表情。




この時、彼らは知る由もなかった、残酷で非情すぎる戦場に身を投じる事を。


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