第8話

燈馬の乗るタクシーを見送った優芽は切ない思いを持て余していた。


手首を優しく握る燈馬の眼差しは何を意味しているのだろうか。


「まさか。ただ心配してくれただけ。」


優芽は自分に言い聞かせる様に呟いて部屋に入った。


着替えをして、携帯を見るとあの人からメールがきていた。


(大至急確認したい事がある。申し訳ないが明日にでも連絡をして下さい。お願いします。)


あの人。優芽の父親である精神科の医師だ。

確認したい事とは何だろう。


優芽は不安になった。母がまたなにかしたのだろうか。哉芽はやっと幸せになったばかりなのに。


明日連絡しなければ。そう考えただけで、今夜は眠ることが出来なくなる。


辛くても、苦しくても、朝は来る。


「お父様。守って下さいね。兄さんの幸せが壊れないように。」


優芽は朝まで祈り続けた。

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