第6話

燈馬は会食を終えて外に出た。風が気持ち良く吹いている。入口のすぐ横で抱き合う二つの影が見えた。


「若いなぁ。こんな所で抱き合うなんて。」


そう思いながらつい見つめてしまった。女性の横顔が月明かりに照らされる。


優芽だった。優芽が笑顔で男と抱き合っていた。


燈馬は何故か胸がムカムカした。酔うほど飲んではいないのに。


たまらなくなって、声をかけてしまった。


「優芽さん?何をしているの?」


燈馬の声に驚いて優芽は琥珀と離れた。


「燈馬さん今晩は。燈馬さんこそここで何をされていたのですか?」


優芽の切なそうな表情で琥珀は全てを理解した。琥珀は燈馬に歩み寄った。


「初めまして。長内琥珀です。紫雲哉芽のビジネスパートナーです。


優芽ちゃんは妹みたいな存在です。会食に来ていた優芽ちゃんを迎えに来たら少し酔ってて。


支えてました。」


燈馬は自分が少し恥ずかしかった。琥珀の方が大人の対応をしている。


「初めまして。睦月燈馬です。優芽さんの主治医です。」


優芽は主治医と名乗る燈馬の言葉に少しだけ寂しい気がした。


「噂の燈馬先生ですね。哉芽からいつも聞いています。哉芽の事ありがとうございました。


アイツがあんなに変わるなんて。燈馬先生のお力添えですね。」


琥珀は優芽を燈馬の前に差し出した。


「燈馬先生すみませんが優芽ちゃんを送って頂けますか?僕はまだ仕事が残っているので。


家元、お疲れ様でしたゆっくり休んで下さい」


優芽は慌てて琥珀を睨んだ。


「私は一人で大丈夫です。燈馬先生もお忙しい方ですから。


琥珀さんもありがとうございました。タクシーで帰るので。もう行ってください。


また明日よろしくお願いします。」


燈馬は優芽の肩をそっと抱いた。


「わかりました。僕が送ります。会食が終わって帰る所だったので。


長内さんありがとうございます。またお会いしたいですね。哉芽君の弱点を教えて下さい。」


琥珀は笑顔で応えた。


「哉芽に弱点はありませんよ。残念ながら。

茉白さんの側で最強な王子になっちゃったので。僕もお手上げです。」


二人の笑い合う姿を見ながら優芽は戸惑っていた。

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