第5話

優芽は時計を気にしていた。そろそろ琥珀が迎えに来てくれる。


紫雲派の支援者で理事である佐々木は酔うと厄介な人物だ。


息子もニヤニヤしながら優芽を見つめてくる。優芽は寒気がした。


「優芽さんもっと飲みませんか?父は帰しますから。


これからは僕と仲良くなって下さいよ。理事も僕が引継ぎますから。」


優芽は笑顔を絶やさないようにしていた。


「佐々木のおじ様はまだまだお元気じゃないですか。


これからもずっと助けて頂きたいです。ねえおじ様。約束ですよ。」


話をかわしながら視線を避ける。もう限界が近い。そう思った瞬間だった。


「失礼します。佐々木様お久しぶりです。お元気そうですね。


息子さんですか?初めまして。長内琥珀と申します。」


優芽の前に琥珀が現れた。本当に優芽を守る騎士のように。


「佐々木様すみません。家元を返して頂きますね。後はいつもの手筈を整えてありますので。


ごゆっくり楽しんで下さい。」


琥珀の後ろから芸者さんが現れてあっという間に佐々木親子を虜にしていく。


「それでは失礼します。家元参りましょう。」


佐々木親子が気づかないうちに優芽を連れ出してくれた。


「ありがとう。いつもさすがですね。

こんな事兄に言ったらどうなるか。


琥珀さんがいてくれて良かった。」


琥珀はネクタイを緩めながら笑顔を見せる。


「哉芽は純粋だからね。汚れ役は僕が受け持つって決めたから。


優芽ちゃんも哉芽を守る為に嫌な役もしてるんでしょ。


だから優芽ちゃんは僕が守るから安心して。」


全ては哉芽の為。琥珀の言葉が優芽には悲しく聞こえる。


琥珀の思いや決意はかつて優芽が感じていたものと同じだったから。


「ありがとう。兄さんは幸せね。琥珀さんもいつか幸せになってね。」


優芽の言葉は琥珀の心に優しい気持ちを与えてくれる。


「優芽ちゃんこそ。もう良いんじゃない?自分の幸せを考えても。


好きな人がいるんでしょう?僕には隠さなで。」


優芽は俯いている。


「私はまだ。もう少し今のままでいいんです。兄さんが幸せになってくれて嬉しいから。」


琥珀は優芽をそっと抱きしめた。


「わかった。じゃああまり無理をしないでね。約束して。」


優芽は琥珀に笑顔を見せた。


「わかりました。ありがとう琥珀さん。」

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