第32話

「どうした?」


私が突然顔を伏せたからなのか、桜井さんは心配そうな声で私に聞くけども顔がとても見せられないほど真っ赤だと自覚してるので、顔をあげられない。


「…茉佑」


私の名前を呼ぶ桜井さんの低くて優しい声が静かな休憩室に響く。


「なんですか?」


「なんとなく」


「ていうか、外で名前呼んじゃダメじゃないですか!」


ガバッと顔を上げると、桜井さんと目が合う。


「あ、顔上げた」


「だ、だって誰かにこのやり取りとか聞かれたら大変だと思って…」


「大丈夫だよ。みんな仕事してるし休憩室には中々来ないでしょ」


「そうですよね…」


沈黙が続く。

ドキドキ心臓がうるさい。


しばらくすると、携帯のバイブが鳴り桜井さんが携帯を取って立ち上がる。


「あ、電話だ。

俺、電話しながら戻るから…

久保はゆっくり休んでな」


「はい…」


「どうした?アリサ」


アリサ?桜井さんから女性の名前が出てくると思わなかった。


でも、そもそも桜井さんには緑川水産のご令嬢とという婚約者がいて…


もしかしてアリサさんっていう人は…


「婚約者さん?」

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