第30話

聡美と別れて、自分の部署に桜井さんのあとを着いて歩く。


「悪かった。友人との貴重な時間を潰してしまって」


「いえ!そんな…聡美とはまた会えますので…

あっ!!」


私の声に驚いて立ち止まった桜井さんの背中にぶつかる。


「どうした!?っていうか大丈夫か?」


「ごめんなさい、私…聡美に話してしまって…契約のこと」


シーンっと一瞬静かになる空気。


桜井さん何も言わないじゃん!そりゃそうだ。


「良いんじゃないのか?久保が信頼しているから話したんだろ?

じゃあ彼女から広まることはない」


「え?そんな簡単に…」


「俺は久保を信頼しているから。

だからその久保が信じてる彼女は大丈夫だ」


なんの根拠もないのに、そんなにあっさり私を信じてくれている桜井さん。


自信満々に言ってすぐにまた向き直し、歩き出す。私はまたその後ろを近すぎず遠すぎずの距離で歩く。


「なんで…」


なんでこの人はそこまで私を信じてくれるのだろう?


どうして私を偽彼女に選んでくれたのだろう…

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