第8話

エレベーターの故障だ 


携帯も壊れるし  

おそらく既に遅刻

欠席扱いで無収入 

今日はツイてない

  

狭く薄暗い非常階段まで走っていき 

手前の上り階段を勢いで駆けようとした時

ふと疑問が過ぎり

手摺りに触れたまま足を止めた


一体ここは何階なのか?

 

目の前の折り返し踊り場の蛍光灯が 

冷たいコンクリート壁を

青白く浮かび上げている


何か踊り場を曲がって上る事に抵抗を感じていた 

手摺り越しから 

下に続く階段を見下ろしても 

同じ感情が湧いてくる


すがる気持ちで開いた携帯電波は相変わらず圏外  

自分の悪態が予想以上に 

何度も反響し 

一瞬すくみ上がった

  

迷っていても仕方なく 

手摺りを掴み 

二段超えで勢い良く上っていく 

 

狭いうえ厚みのある壁の反響が 

足音を普段聞き慣れていないこだまへと変え

特に踊り場では一際大きく耳に届いた

コンクリート壁は艶があり 

ひび一つ無く 

まだ新しい事がうかがえる


床と階段に自分の影が薄く這いつき 

上るに連れ暗闇に消え 

上の階の天井照明が近づくと再び背後に現れた 

 

今通ってきた踊り場を見下ろすと 

非常口だからか 

人の気配の無さを改めて実感する 

自分が通った後はとても静かだった

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