第3話
本探し日和と普通は言わない。
でも、今日はそう言いたい。
空は快晴で風もない。
寒くもなく暑くもない気温で過ごしやすい。
「本日はどこに?」
隣にいるメアリが町の地図を広げて言った。
その地図には本屋のマークがびっしり付いている。
「この間の古書店に行くの。ロウさんからいい本が手に入ったと連絡があったから。是非、見てみたい」
「もうですか!?2日前に依頼したばかりではありませんか」
「仕事が早くて助かる。今読んでいる本が読み終わりそうだったから」
今日は週に1回の町で本探しの日。
身分を隠すために身なりも町娘がよく着るワンピースとフード付きの羽織物。
護衛は隣にいる侍女のメアリのみ。
侍女なのにとても強いし。
剣の扱いも上手だし。
お披露目や夜会から逃げられているのだって、メアリの情報力と行動力が素晴らしいから。
やっぱり、お母様の元にいただけある。
お母様が出国した次の日に屋敷に来て、お父様なんて無視して私の専属侍女になちゃったし。
【公爵様に拒否権などございません。公爵様に子育ては困難です。全てシンディ様が行っていたのでしょう。愛人の子供が可愛らしいのでそちらばかりに気持ちが向かっているご様子。まぁ、ご子息ですからね。そして、愛しい方の子供ですもの。可愛いと言っておきながら遊んだこともない公爵様には無理です。公爵様は黙って家の仕事をして領地を盛り上げて下さい。お金をバンバン稼いで領民にために尽くして下さい。アメリア様のお世話は私が致しますので。あぁ、お給料などはお気になさらずに。シンディ様から頂いております】って、言われてしまったらねぇ。
お父様は心をズタズタにされて崩れるようにその場に座り込んだのを今でも覚えている。
「メアリ。帰りにアップルパイを食べて帰ろうね」
「その前に服を買いましょう。そろそろ衣替えの時期です」
「あー、今の服じゃ無理か。出国頃には必要かも」
「はい。丈夫な生地を探しましょう」
「よし!激安特価を探そう!」
「はい。節約しなければいけませんので」
本を手に入れてから服を見てアップルパイね!
古書店は表通りから少し外れたところにある。
外観はツタで覆われてレトロ感な仕上がりだ。
店主はとても優しいおじいさん。
古書店に着くとたくさんの本が積み上がっている。
「いつ見ても凄い本の量。本で出来た壁なんて素敵。幸せ」
「屋敷と同じ光景だと思いますが」
「屋敷の光景とは全く違うの!分からないかなぁ。ロウさん。例の本を頂きに来ました」
「おやおや、すぐに来ましたか。お嬢ちゃん」
お店の奥から出て来たのは背筋をピンッと伸ばしたこの店主でもあるロウさん。
「本は?」
「そんなに焦らず。少しゆっくりしていきなさい。お茶でも飲みないさ。どうせ、お客様なんて来ないから。お話しでもしましょうかね」
ここの本はマニアック過ぎて興味がないのかもしれない。
小さな丸いテーブルには店主が淹れてくれた紅茶が置かれた。
「2週間前に頼まれた本だけど手に入れるのが難しくてねぇ、しょうがないからハル君にお願いしたんだけど。ハル君ならすぐに入手できるからねぇ。あの子、お嬢ちゃんの依頼だと言ったら凄くご機嫌で探しに行ったよ」
「ハルは時々遊びに来るの?」
「最近は忙しそうだから回数は減ったよ。優秀な子は大変だ。大商人から大貴族まで依頼者が多くてね。何でもやるからねぇ」
「ロウさんはハルのことを嬉しそうに話しますね。いつも思います。息子のように話すので」
「小さい頃から知っているからね。お嬢ちゃんもハル君と仲良しじゃないか。依頼だけの付き合いではないだろう?」
「…………………ハルから聞いたんですね?おしゃべりさんは困ります」
「嬉しそうに話すもんだから。楽しかったのだろう」
「ハルはいつも突然現れるので困ってます。勝手に来て一緒にお茶をするので」
「ハル君だからねぇ。連絡なんて寄越したら逆に怖いと思うよ。それで?お嬢ちゃんはどうなのかね?公爵邸や王宮の件はなんとかなりそうかね?」
ロウさんは優しそうな表情から悪そうな表情をする。
昔はかなりヤンチャをしていたおじいさん。
その頃の雰囲気がたまーに今でも出るときがある。
「まぁ、すぐにとは難しいですが。順調に進んでいると思います。相手もその気だと思いますし。邪魔者はいないかと」
「僕がまだ現役だったら力になれたのにねぇ。あと30歳若かったらねぇ。すぐに破棄させたのに」
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