噂の公爵令嬢

第2話

この国は緑豊かな山々に囲まれ動物や川魚にフルーツなど食べ物に恵まれている。

大きな川はいくつかありそれを利用した水田が作られ農業が大きく発展した。

発展することは国にとっても国民にとっても嬉しいことだった。

だが、急激なスピードで発展していけば問題も出てくるもの。

人手不足が深刻化したのだ。

広大な土地と素晴らしい水田があっても土地を耕す人や作物を育てる人に水路を作る人などがいなければ意味がないものだ。

国は人手不足を解消するために何度も協議をした。

そして、やっと解消できる案が出た。

それが【労働制度】というものだった。

その当時、災害によって親を亡くした子供や家を無くした家族などたくさんの避難民が溢れ問題視されていた。

国はその問題も解決するために労働制度を設立したのだ。

仕事を無くした者はその制度に縋り付き、労働者を求めている雇い主のところに派遣されていった。

最初の頃は役人が雇い主を視察したり労働条件なども国に提出させていたりと厳しく取り締まりされていた。

だが、雇い主は利益を多く得たいと考え始めた。

作物の生産量を増やすためにはもっと人がいる。

だが、国に依頼をして人を増やせば国に決められた給料を払うことになる。

それではあまり利益が出ない。

考えた結果、国を通さない雇いに手を伸ばした。

当時、労働制度を申し込むためにたくさんの労働希望者で溢れていた。

だが、申請にはどうしても時間がかかる。

そこに雇い主は目をつけたのだ。

少ない給料でも良いならすぐに雇ってあげると持ちかけ、それに釣られてたくさんの労働希望者が流れていった。

その違反者たちで次第に労働の格差が大きくなり国が管理できないものになってしまった。

これが【奴隷制度】の始まりであった。

少ない給料で働いていた人はいつの間にか虐げられる存在となり酷使を強いられながら働かせられていた。

逃げられないように鎖で繋げられ体が動かなくなるまで畑を耕す姿は酷いものだ。

栄養失調や暴行で死んだ者たちなど力尽きてしまった奴隷は大きな焼却炉で焼かれ弔うこともされなかった。

奴隷が多くなるとそれに繋がる仕事も増えるということだ。

いつの間に奴隷市場というものが作られ、たくさんの労働奴隷が売られるようになった。

人攫いも多くなり容姿の良い女や男なども売られるようになり愛玩奴隷というものも出始めた。

最初は金持ちの商人から始まって貴族に繋がり最後は王族にまで愛玩奴隷を飼うようになってしまった。

また、美しい容姿の愛玩奴隷の価値は相当なもので手に入れたものは自分の権力の証などとも言われるようになる。

ただ、所詮奴隷だ。

自分のいいように調教し要らなくなったら嬲り殺すか奴隷商人に売る。

今ではもう労働制度などは存在しない。

あるのはいつの間にか作られてしまった【奴隷制度】だけだ。

まだ5歳の私が国が管理する歴史書をお母様に頼んで借りて読んだとき、大泣きしてしまったのを覚えている。

なんて残忍な国なんだ。

私が初めて国のことをちゃんと知ってしまった瞬間だった。

お母様がよく言っていたことがある。

『この国、滅んだらいいのに』

それがよく分かってしまった瞬間でもあった。

お母様は私にたくさんのことを教えていた。

主に、この国の残念なところを。

お母様はこの国では変人扱いされていた。

周りと考えが合わないのだ。

屋敷にいた奴隷に雇用条件を命じて給料もしっかり支払っていた。

しっかりとした服装を着させ公爵家の使用人に相応しい礼儀と教育も教えた。

お母様は他の貴族のように奴隷を虐げることなく平等に接した。

私もそんなお母様の元で育ったので身分など気にすることなく一緒に遊んだり一緒に勉強したり過ごしたのを覚えている。

いつまでも続いてくれることを願っていたが、それは叶わなかった。

私が10歳の時にお母様とお父様が離婚をした。

お母様は奴隷の使用人と一緒に私を連れて行こうとしたがお父様は許さなかった。

親権争いに負けたお母様は奴隷の使用人と一緒に国を出てしまった。

政略結婚だったのは知っているけれど、まさかこんなに早く離婚するとは思っていなかった。

お父様は私を公爵家に相応しい令嬢にしようといろいろな教育を行おうとしたが、もうお母様の色に染まったいた私は全てを拒否。

使用人やお母様から渡されていた本を好きになりドレスや宝石より本を欲しがるようになっていたのだ。

私のお披露目会もすっぽかし、本人不在のお披露目会となってしまった。

いつの間にか婚約者という者がいたがどうでも良かった。

自分の部屋も静かな場所に移して本でいっぱいにした。

私をどうにかしたかったお父様は無理矢理王宮に連れていき夜会に出席させようとしたがスルッと交わし王宮の書庫で本を漁る。

気に入った本があれば屋敷に持ち帰り本を読む。

そんなことを何度も繰り返していたためか変なあだ名まで付いてしまった。

【ほら、あの令嬢が本狩り令嬢ですわ】

失礼なあだ名なのは確かだと思う。

狩りではなく借りているのに。

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