第473話

大晦日。


雪は降っていないが外はピューピューと風が吹き寒そうだ。


こういう日は外に出ないで家でぬくぬくしたい。


私はソファーの上でだらんと座りテレビを見ている。


お父さんはキッチンで何やら準備中。


お母さんはスマホで何かを検索中。


ケイはいつもの場所というかストーブの前を陣取り中。


そして、亜紀は………………


というか、朝からずっといるよね。


本当にずっとだ。


みんな当たり前のように受け入れているから凄い。


亜紀は私の隣に座りスマホで何かを検索中。


あれでもないこれでもないとブツブツと呟きながら。


何かに集中していると静かでいいな。


あっ、ここのケーキ屋さん真理亜がおすすめしてたところだ。


テレビに出るなんて人気なんだなぁ。



「凛、スマホ鳴ってるよ」



お母さんが知らせてくれた。


ダイニングテーブルに放置していたスマホが震えていたらしい。


立ち上がりスマホを確認する。


誰だ?と思ったら大塚さんだった。


着信?



「はい」



『あっ、やっと出た!もう何回も電話しても出ないんだから!』



「あっ、ごめん。そんなに連絡くれた?気づかなかった」



『どっかに出かけてた?』



「家にいる。どうしたの?大晦日でも課題やってるの?頑張ってるね」



何かにつまずいたのだろうか?


参考書でも借りたい?



『違う。大晦日なのにやるわけないじゃん。今日暇?』



テレビを見ながら寛いでいたから暇と言えるのか?



「テレビ見てた。今ね、スイーツ特集やってるの」



『なら、暇だね。ちょっと光さんのお店に集合!』



「光さんのお店?」



『手打ち蕎麦が食べられるよ。本職人の。光さんが蕎麦をもらってきたの。たくさんあるから椎名さんも誘えばって』



へ〜ぇ、手打ち蕎麦か。


………………。


食べたい。



「すぐに行くから待ってて。あと、亜紀の連れて行くから」



『分かった。光さんに伝えておくよ。待ってるね』



通話を切って亜紀の肩を掴む。



「亜紀、蕎麦を食べに光さんのお店に行くよ」



「はぁ?蕎麦?夜じゃないのか?」



「昼も夜も蕎麦。大塚さんから連絡あって、職人が作った蕎麦が食べられるって。光さんがもらってきたらしいの」



「へ〜ぇ、まぁ………………いいか」



「よし、食べに行こう。ちょっと蕎麦を食べに行って来ます」



ダウン着ないと。


持ち物は少なくていいか。



「行ってらっしゃい。余ったら蕎麦もらってきて」



お父さんからのお願いを出されてしまった。


余るかな?


食べる前に光さんに伝えないと。



「亜紀君。車は軽で行ってね」



「ん」



亜紀は車の鍵を持ちダウンを着てリビングから出る。


私も自分の部屋に戻り厚着をして家から出た。


先に車に乗り込んだ亜紀は暖房をつけて暖めてくれていた。


快適な温度にしてくれてありがとう。



「なぁ?」



「何?」



「お前はもうペーパードライバーだな。もう運転出来ないだろ?する必要ないだろ?自分から練習をしたいって言わないだろ?」



「………………」



なぜ、それを今ここで言うの?



「はい、発進させてください。待たせているので」



「分かったよ。行くから焦らすなって」



車はゆっくり発進して国道に出る。


大晦日だからなのかいつもより車の通りが多いように思える。


でも、渋滞があるわけではないから到着時間はいつも通りだろう。



「蕎麦食ってまた蕎麦か」



「日本食を堪能してよ。食べたいんでしょ?光さんが作るから天ぷら蕎麦かもしれないよ」



「おっ、豪華じゃん」



分からないけど。


シンプルな蕎麦かもしれない。


光さんのお店に着くと大塚さんと海がカウンター席に座ってお茶を飲んでるところだった。



「椎名さん、お疲れ〜。課題は順調ですかぁ?私の連絡を無視してくれちゃって………………ふふっ、分かってるよ。課題は1人でやるものだよね。でも、1人でできない場合もあるんだよ!」



大塚さん、お酒飲んでるわけじゃないよね?



「どうも。私は、1人でやり続けてるよ。頑張って。ネットがあるでしょ?ところで、お酒を飲んでるわけじゃないよね?酔ってないよね?」



「ホットウーロン茶で〜す。海さんは、お酒だけど」



えっ、湯呑みだったからお茶だと思ったらお酒だったの?


違うコップはなかったわけ?



「嬢ちゃんも課題が終わってないんね。希は泣きそうになりながらやってるんよぉ」



和菓子で煮詰まっているのかな?


まぁ、それぞれ自分でやらなきゃいけないからしょうがない。

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