Prologue-3 銀髪の転校生

「転校生?」


 窓際で涼しい心地良い風を堪能していた守の耳に飛び込んできたのは、幼稚園からの幼馴染である夷曲未華ひなぶりみかの言葉だった。


「そ、今日このクラスに来るんだって」

「へ~」


 高校二年生。ミステリー研究部に顔を出す機会が減り、クラスメイトとの親交を深めて大分馴染めてきた五月中旬。新たにクラスメイトが増える話は守にとってはそこまで興味のあるものではなかった。


「どうでも良さそうな雰囲気」

「あぁ。俺は今あの辺にある物体で何が凶器として使えるかを考えてるところだからな」

「いや意味が分からないんだけど」


 校舎に面したグラウンド。サッカーゴールやプレハブ小屋を見てはそれを凶器にできるか否かを思案する。守の一風変わった趣味(?)に未華はため息をつく。


「相変わらず守は思考が狂ってる」

「それほどでも」

「褒めてないから」


 間髪を入れずに未華のツッコミが入る。毎朝教室で行われる幼馴染との他愛ない会話はお互いに楽しさを感じていた。

 もはや日課となりつつある未華との対話は定例通り、朝の予鈴まで続く。


「じゃ、また後で」


 予鈴、そして担任が教室に現れると同時に未華は自分の席へ戻っていく。


「今日は転校生を紹介する」


 担任は教卓に書類を置いて早々そう言った。


(未華が言っていたことは本当だったのか)


 恋愛漫画の導入部分でよくある展開だが、守の幼馴染は既にクラスメイトなわけで勿論未華以外に昔遊んだ人もいないので、奇跡の再会ということは起こりえないだろう。

 しかし、起こりえないと思われていた奇跡の再会は神のいたずらによるものなのか、いとも簡単に起こってしまった。

「入っていいぞ」という担任の声で教室へと足を踏み入れたその人物を一目見た守は、あの喫茶店で出会った少女を思い出した。

 教室内はざわめいていた。「すっげー美人」「どこかのお嬢様なんじゃね」などと周囲から聞こえてくる。


「自己紹介してくれ」


 促されてその銀髪少女は黒板に漢字を一文字ずつ書いていく。

 三文字書き終わる。再びクラスメイト達の方へ向き直った。


「や、山田高校から転校してきましたっ。き、煌彩瞳きらあやめです、よ、よろしくお願いします!」


 言い終わって頭を下げる。そして盛大にその頭は教卓に直撃して、教室内に衝突音が響いた。


「痛ったああ~!」


 クラスメイトは衝撃を受けただろう。主に教卓直撃に。

 ただ守は一番衝撃を受けていた。

 半年以上前の喫茶店で起きた事件の現場に現れた守と同年齢くらいだろう銀髪の少女。その少女はまさに今転校生として目の前にいる少女ではあるのだが、挙動や言葉遣いが余りにも違いすぎた。

 実は別人なのかと思い、一旦目をこすってもう一度容姿を確認してみる。変わっていない。

 思考停止を実感した。これは夢か、それとも幻覚か。守は独りで錯乱した。


「おい大丈夫か」


 担任も驚いて、絶賛悶え中の彩瞳に声をかける。


「だ、だだ大丈夫です…」


 フラフラしている彼女を心配そうに見ながら、担任は取り敢えず咳払いをする。


「ということで今日からこのクラスの一員となる。仲良くするように。…煌の席は…乙鳥の隣が空いてるな」


 守の横の空席を確認した担任はそこを指さした。またもや二次元的な展開だ。

 彩瞳は先程クリティカルヒットした頭をさすりながら指定された空席へ進んで着席した。


「また、会ったね…?」


 さすがに挨拶を交わさないのも悪いので、守は彩瞳に声をかけた。未だに喫茶店の少女と隣にいる少女が同一人物だということを信じられない守は、恐る恐るの声がけをしたのだ。


「あ、お、お久しぶりです。き、喫茶店で、の方ですよね…?」


 同一人物で確定した瞬間、守はギャップで風邪をひいた。

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