第30話

試合開始のゴングが鳴った。第1ラウンドから打ち合いの勝負に出た貴子だが、有美のアウトスタイルと接近戦のスタイルを兼ね備えたボクシングに苦戦した。なかなか、貴子の左フックがヒットしない。終始、有美は、貴子と一定の距離を置きながら、離れて勝負をした前半戦。こんな状態が、第3ラウンドまで続いた。第3ラウンド終了後のインターバルで、

「必ず相手は終盤に勝負して来るので、チャンスがあれば積極的に攻めろ。」

とセコンドからはっぱをかけられた。第4ラウンドも前のラウンドとほとんど変わらない試合内容だったが、迎えた第5ラウンド、試合展開が一変した。貴子が右ストレートを打ちに行った直後、一気にカウンターから左アッパーが貴子の顔面に直撃した。それを境に、試合展開は有美のペースに変わった。しばしば、貴子はロープを背にすることとなった。このラウンド終了後のインターバルで、

「あせるな!!貴子。あせったら相手のパンチをまともにもらって倒されるぞ!!」

と貴子に原島会長がアドバイスをした。一方、有美のサイドのセコンドは、

「ここが勝負だ!!一気に攻めるぞ!!」

と、はっぱをかけていた。第6ラウンド開始のゴングが鳴った。始まってから30秒が経とうとしていた瞬間だった。有美の右フックが貴子の顔面に直撃した。貴子はマットに倒れた。レフェリーからのカウントが始まった。この場面では貴子は立ち上がった。貴子は再び気力を振り絞ってリング上で戦ったが、第6ラウンド開始から1分過ぎに、有美の右ストレートが貴子の顔面に再び直撃。ダウンを再び奪われた。貴子はマットの上で仰向けになったまま10カウントを聞いた。試合が終わってから、セコンドと原島会長がリング上に入って、貴子のところまで行った。

「大丈夫か。」

貴子は気を失いかけていたが、原島会長の声を聞いて我に戻った。

「負けちゃったんだ。相手、メチャ強かったよ。」

自力で立ち上がった貴子は、勝った有美のところに行った。

「有美さん。強かったよ。」

と貴子が有美に言うと、

「貴子。オマエも強かったじゃない。序盤は結構苦戦した。」

ト、有美が貴子に言った。2人はお互いに、この試合の健闘をたたえ合った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る