4
第29話
④
春樹が後楽園ホールに着くと、春樹の目の前に貴子の姿があった。
「今日の試合はメインだから。絶対、最後までいてね。付き合って。と言ったけど、返事聞かせて。」
と貴子が聞くと、
「ゴメンな。オレ、好きなコがいるから。」
と春樹が答えると、
「昨日、西浜学園高校の文化祭に行っていたんだろ。松中ジムの三井秀美から話は聞いたよ。彼女の同僚の先生の赤松麗奈のことだろ。私、フられると思ったよ。だけど、返事が来ないまま、あの世行きだけはイヤだったから。とにかく、がんばるよ。」
と貴子は、そのことについては、吹っ切れた感じで、小走りで控室に戻っていった。この日のイベントは、春樹にとって、もう1つ注目だった試合があった。アンダーカードで組まれていた男子ウエルター級10回戦を戦う藤村雅紀の試合が観たかったからだ。貴子と同じジムに所属している宮沢が、こいつだけは対戦したいと思っていた相手だったからだ。宮沢が4回戦ボーイだった時代に一度対戦して、引き分けた相手だったことから、「白黒ハッキリさせたい。」と何度も聞かされていたし、どんな選手なのか、この目で見てみたかったからだ。試合は2ラウンドKO勝利。後々、日本タイトルマッチに挑戦というウワサも流れているみたいだ。この試合が終わってから、春樹がトイレ休憩に行った帰りに、宮沢とバッタリと会った。
「今さっき試合していた藤村。コイツ、本当強いだろ。おそらく、来年の春あたりに日本タイトルマッチを戦うことになるみたいだ。コイツとは、また戦いたいからな。日本タイトルいや世界タイトル獲得が目標!」
と、藤村の勝利を歓迎した。
「いよいよメインイベントだな。」
と春樹が言うと、
「今日のメインイベントは女子フライ級8回戦。吉見貴子のセコンドに入るんだけど、この試合に勝ったら、日本タイトルマッチのチャンスだってあるかもしれないとの話だから。アイツ真剣だぜ。」
と宮沢が言った直後、春樹の後ろから1人の男が春樹の肩を一発たたいた。
「ヨォッ!春樹。」
「痛ーっ!もう少し、手加減してくれや。」
と春樹は後ろから来た男に言った。
「あっ、兄貴。」
と男が宮沢に向かって言った。
「紹介するよ。コイツ、オレの弟の宮沢浩明というんだ。吉見と同じ高校の同級生で、1年生の時はクラスも同じだったんだよ。」
と、その男を紹介した。かつて、春樹が高校時代に同じ電車で、たまに同席することもあった宮沢の弟だった。ちなみに、彼、「腕っぷしでは、兄貴にはかなわない。」という話も聞かされていた。ただ、近所では喧嘩が強くて評判だったらしいのだ。
「久しぶりだな。オマエの席も用意しているから、おいでーや。」
ということで、春樹は、宮沢の弟の浩明たちと一緒にメインイベントの観戦をすることとなった。春樹たちが席についた直後、場内が真っ暗になった。
「ただいまより、女子フライ級8回戦、両選手リング入場です。最初に、青コーナーより、日本女子フライ級5位吉見貴子選手、入場です。」
とのリングアナウンサーからのコールがあり、スポットライトに照らされながら、貴子はリング入場した。
「続きまして、赤コーナーより、日本女子フライ級1位武田有美選手、入場です。」
というリングアナウンサーからのコールに続いて、対戦相手の有美もリングに入場した。レフェリーから、貴子と有美がリングの中央に呼ばれた。貴子は、普段以上に妙に緊張していた。
「お互い正々堂々と戦うように。」
と、レフェリーから両者に向けて言われた。貴子と有美は、その後、グローブを合わせた。
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