3
第25話
③
夏も終わり、秋風が吹き始めたある日のことだった。原島ジムの練習に貴子がやって来た直後、原島会長から会長室の方へ貴子は呼ばれて行った。
「たかちゃん。次の試合の対戦相手が決まったよ。武田有美との対戦が決まった。戦績は7戦して6勝(4KO)1分け。現在、女子フライ級の日本ランキング2位の選手だ。試合は8回戦で行われるから。しっかりとスタミナをつけとけよ。」
「ありがとうございます。」
「試合は1カ月半後。フライ級の体重に落としておけよ。さあ、練習、練習。」
久々に貴子の試合が組まれたことで、話がはずんでいた。そして、会長から貴子と真理奈のもとへやって来て、
「10月に麗香の防衛戦が組まれているんだ。今度の試合、セコンドに入ってもらうから。そのつもりでいとけよ。」
との報告があった。
「えっ、私達が。」
と、2人が言うと、
「これは決定事項だから。」
と会長の方から2人に伝えていた。
昨年12月の防衛戦が終わってから、1年近くのインターバルとなってしまった麗香。5月末に対戦する予定だった選手が、タイトルマッチが行われる3週間前に妊娠していたことがわかり、試合が中止となったのだ。本来戦う予定だった選手のためにも、この試合は勝ちたい。出産予定日のクリスマス頃には、勝って、麗香がチャンピオンとして、本来戦う予定だった選手が産んだ赤ちゃんを見に行きたい思いで胸がいっぱいだった。そして、貴子と同じジムに所属している有美子も、9月末にはプロテストを受験する予定になっていたのだ。ある日の土曜日の昼のこと、有美子と春樹は、ジムの近くの喫茶店で食事をする約束をして、待ち合わせ先の喫茶店で、2人は食事をすることとなった。食事中の2人の話の中で、有美子が、
「4日後、プロテストがあるんだけど、もし、プロテストに合格したら、どんなリングコスチュームにしようかな。」
と、カジュアルファッションのカタログを春樹に見せた。
「オレ、今のところ、さしあたって有美子ちゃんのリングコスチューム、どんなコスチュームがいいのかわからないなー。あー。難しいな。」
と、春樹は、プロデビューのことを既に考えている有美子を見て、気が早いな。と思いつつ、有美子のリングコスチュームのことで一緒に悩んでいた。
「私と同じジムに所属している三浦麗香さん。来月の初めに防衛戦が行われるんだけど、観に行ける?」
と、有美子は春樹を誘ったが、
「ごめん。この日は無理だよ。保育園の運動会なんだよ。これさえなければ、行きたかったけどなー。本当に、すまないね。誘ってくれてありがとうね。」
と答えると、
「そうなんだ。仕方ないね。もし、次にイベントが行われる機会があったら、また、誘うよ。相談に乗ってくれて、ありがとうね。食事が終わったら、ちょっくらジムの方へ遊びに来ない。たまには、こういうところでの気晴らしもいいと思うよ。」
「じゃあ、ちょっくら遊びに行くか。」
と、有美子は春樹をジムへ誘った。あまり、有美子の通っているジムに遊びに行くことが乗り気でなかった春樹だったが、彼にとっては、ボクシングジムがどういうところか見てみたいという好奇心もあったことから、この誘いに乗ることとした。ジムに着いて、中に入ると、春樹の高校の先輩の宮沢が練習中だった。春樹と目が合うと、
「よおー。久しぶりだな。」
と声をかけてくれた。
「オレの試合。1カ月後に組まれているんだ。応援してな。」
「この日は平日だから観に行けないよ。仕事だよ。すまないね。」
と、春樹は答えた。ジムの他のメンバー達が、春樹を見て、
「オイ。新入りかい。」
と、ジムの他の1人の男子プロボクサーから聞かれて、
「いいえ。違うんです。たまたま、友達がここのジムに所属していて、ちょっくら遊びに来たんです。」
と受け答えた。マジ、ビビった。それから30分くらい経って、春樹は有美子に、
「もう練習始まるんだろ。オジャマになるから帰るで。」
「プロテスト。合格できるようにがんばるから。応援してね。」
との話をして、春樹は帰って行った。
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