第24話
後楽園ホールの方では、真理奈の試合が、メインで行われるあずさの試合の4試合前に組まれていた。しかし、真理奈の今回の対戦相手の藤井翔子はかなり手強い相手だった。高校2年生でアマチュアの日本タイトルを獲得した強豪で、今回の試合がデビュー2戦目だった。おまけに、前回の試合は開始1分足らずで相手をKOした選手だったのだ。必死に戦った真理奈だったが、相手がかなりの強豪だったことから、開始1分に近づいた頃に一発顔面にまともにパンチをもらい動きが止まってしまった。そして、開始から1分30秒。左ストレートをもらい、ダウンを奪われてしまった。最終的に10カウント以内で立ち上がることができず、KO負けを喫した。試合終了後、セコンドがリング上に上がり、真理奈に「大丈夫か。」と言って、声をかけていたシーンが痛々しかった。リングから真理奈は自力で引き揚げたが、試合に敗れた悔しさからか、目には涙を浮かべていた。そういえば、今日の試合は、リングサイド席に真理奈の婚約者が観戦に来ていたのだ。秋には挙式の予定ということだけに、本当に残念な敗戦だった。いよいよ、この日のメインイベントのあずさの試合が始まった。試合が始まって1分くらい経った頃か、春樹のケイタイに薫から電話がかかって来た。
「今夜の試合。当初の予定よりも早く試合が終わってしまった。今、まだ、そっちの方は試合中なんだろ。」
「今、あずさ先生の試合が始まった。」
「じゃ、どうする。会場へ行こうか。」
「入場券が必要だよ。2,000円払わなきゃいけないよ。どうする。」
「じゃあ、後楽園ホールの入口付近で待っておこうか。」
「そうするよ。」
「じゃあ、試合が終わったら、そこで落ち合おうな。」
「そうしようか。またな。」
電話が切れると、千晴が、
「もしかしたら、伊本君からだったの。」
と、春樹に聞くと、
「そうだよ。東京ドームから、こっちへ向かうとのことだよ。後楽園ホールのロビー付近で、あずさ先生の試合が終わってから落ち合う約束をした。」
と答えた。試合の方は、互いに譲らず、一進一退の攻防となった。試合の方は6回戦制。最終ラウンドに突入した。このラウンドに入って1分が過ぎたあたりだったか、あずさが相手からダウンを奪った。しかし、相手は立ち上がり、フルラウンドを戦い抜いた。判定では、相手の方が優位に試合を進めていたため、あずさは判定で敗れてしまった。客席にいた園児たちと、クラス担任を受け持つ相棒の先生の千葉とがリングに向かって、
「あずさ先生、よくがんばったよ。次の試合は勝ってね。」
とエールを送っていた。
一方、後楽園ホールのロビー付近で、春樹たちを待っていた薫の下に、一通のメールがケイタイに入ってきた。
今日、試合を観に来てたんだってな。今朝、2軍の遠征先の仙台で、1軍登録の知らせを聞かされて1人新幹線で東京へ。道中、仙台駅のキオスクで買ったスポーツ新聞を広げたら、うちのチームの主力でクリーンアップをまかされている内野手の選手がケガで故障者リスト入り。1軍の方は、投手の頭数が足りなくて、オレが1軍に呼ばれたってワケ。今日はブルペン入り。7回あたりかな。ピッチングコーチから投球練習するように言われたけど、出番なかった。2週間ほどで、その選手戻って来る予定だから。もしかしたら、2週間後は、また、2軍に逆戻りかな。1軍に残れるようにがんばるわー。また、応援に来る機会があったら、応援においでよ。待っとるから。
ケンジロウ
と、いうメッセージが入っていた。
「よおっ、春樹。待っていたぞ。」
「薫先輩。」
薫の待ち合わせ場所に、春樹たちがやって来た。
「これからどうするんだ。」
薫が春樹に聞くと、
「もう、これから帰ろうかと思っているんだけど。」
と答えた。
「東京ドームの試合はどうだったんだい。」
と千葉が聞くと、
「今日は、DeNA負けちゃったよ。西原も今日は登板がなかった。」
と薫は答えた。
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