第35話

「エリカさん、落ち着いて?先生にそんな言い方しちゃダメだよ?」


「…はあ?」



今の今まで黙ってた奴がよく言うよ。



「てかさぁ、先生も何なの?言いたいことあるなら私に直接言えば良いじゃん。急に学年主任が出てくるとかこっちからすればマジで意味分かんないから」


「違うのよ、エリカさんっ!私はね、」


「てかその“エリカさん”ってのいい加減やめ」



「噂が耳に入ったんだよっ!!」



私達の言い合いを止めたのは、さっきよりも格段に大きくなった学年主任の声だった。


「…はい?」


「君が援助交際をしているっていう噂が」



学年主任は私が自分の方に顔を向けたのを確認すると、また落ち着いた声で話し始めた。



「うちの学校だけじゃない。この辺りの他の高校でもそれは有名な話だと聞いた」


チラッと隣の水口を見れば、なぜかこの女は泣いていた。



意味分かんない。



何であんたが泣くのよ。



私はあのクソ豚野郎に処女を奪われた時だって泣きはしなかった。



簡単に泣くなよ、腹が立つ…!!



「私達は心配なのっ…」



「はぁ…」


私からは無意識にため息が溢れた。



頼んでもいない心配なんて、私からすればひたすらウザいだけだ。



水口はあんな親を持つ私にそんな噂があると知って、どうしても私を疑わずにはいられなかったんだろう。




純粋に自分の生徒である私が心配なだけなのかもしれない水口も、私には単純に“良い先生”をアピールしているように見えるだけだった。




面倒くさい。


何もかも。

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