第33話

話すことなんて何もない私は、黙ったまま学年主任の履いている靴を眺めていた。


茶色く光沢のある革靴。


その高そうなスーツにぴったりだ。


うちに来る男達の中に、そんな高そうな革靴を履いている人なんていない。



一体この人の靴はいくらくらいするんだろう。


私の履いているこのローファーなんてまだ一年生だから新しめではあるものの、買い替えることなんてこれから先もきっとない。


破れようとも色が剥がれようとも、私は三年間同じローファーでここに通うんだ。



…別に良いけど。



「…お母さん…の、こととか…」



黙って学年主任の靴を見ていた私に、学年主任は遠慮がちにそう言った。


その言葉に私が学年主任の顔の方へ視線をあげると、少し緊張したような顔で私を見ていた。



水口、学年主任に話したんだ…

あの日見たこと。



なんでわざわざ言うかな。

自分はもうすぐ産休入って、帰ってくる頃にはきっともう私の担任でも何でもないのに。



どいつもこいつも、本当使えない。



「うちの母が何か?」


「いや、面談。お母さんを学校に来させたくないのかなって…」


「そんなんじゃありません。したくないんじゃなくて、する必要がないんです」


「でもこれは決まりのようなものだから、一人だけやらないってわけにはいかないんだよ」



…ムカつく。


言ったところで私を助け出せる人なんてここにはいないのに。



「決まりって何ですか?」


「決まりってのは学校が決めた、」


「それを守れなかった人は学校を辞めなきゃいけないんですか?」


「いや、そうじゃないけど」


「じゃあ何ですか?私、何かペナルティでも受けなきゃいけなくなるんですか?」



気付けば私は食い気味に学年主任を捲し立てていた。

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