第32話

「失礼します」


「失礼…します…」


私が水口に続いてその部屋に入ると、さっき声をかけてきた学年主任が応接セットのソファーにポツンと座っていた。



学校にこんな部屋があるなんて知らなかった…



「緊張しないで。別に怒ったりするわけじゃないから。さぁ、ここどうぞ」


学年主任は柔らかく笑うと、自分の目の前のソファーを掌で指し示した。


「……」


水口に促されて私が黙ってそこに座ると、私に続くように隣には水口が腰を下ろした。



なに、これ…



「えっと水口先生、面談は…」


学年主任がそう言って水口の顔を見ると、水口はゆっくりと首を振った。


「…そっか。いや、あのね、家庭訪問も結局できなかったって聞いて、君のことは気になってたんだ」


「……」


「その…もし悩みとかがあるなら、ぜひ相談して欲しいんだけど…」


「……」


あー、そういうことか。





面倒くさっ…





「別に悩みなんかありません」


「そう?本当に?」


「……」



ウザいなぁ。


何言わせたいんだよ。


水口は何も言わず、学年主任と私のやり取りを黙って聞いていた。

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