第12話

朝の電車はそこそこ人が多くて少しだけ気持ちが滅入る。



そんな中、聞こえた。




「あ、ほら、あの子だよ、あの子」


「え?あのドアの前に立ってる子?」



その声にチラッと目をやると、他校の制服を着た男子が数人で私の方を見ていた。



「そうそう。マジで五百円でヤラせてくれんのかな?」



おいおい。


五百円は安すぎでしょ。


ふざけんなよ?


華の女子高生舐めんな。



「ちょっとお前聞いてこいよ」


「何て?五百円でヤラせてくれるって本当?って?んなこと聞けるわけねぇだろ。違ってたら俺ただのバカじゃん」


「でもマジだったらかなりお得だぞ」



男子達は楽しそうに笑っていた。


お得って…人を商品みたいな言い方すんなよ、猿どもが。



私は面倒になって、ポケットから出したイヤホンを耳につけた。



「あっ、イヤホンつけた」


「もう今日は無理だな」


「惜しかったー」



何も惜しくねぇよ、猿が。



「女の足触りてぇー」


「あれ?お前、大学生の彼女は?」


「それとこれとは別なんだよ」



今も全部聞こえてるよ?



だって私…




イヤホン、耳につけただけだから。


本当に“つけた”だけだから。


携帯なんて持ってないし。

音楽を垂れ流す本体がないんだからしょうがないよね。


私はイヤホンの先を、一緒にポケットの中に入れた右手でぎゅっと握りしめた。

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