第10話

「お釣りは?」


「いらない」


お母さんはどこか他人事のようにそう言って、咥えていた煙草を手に取ると近くにあった灰皿に灰をトンッと落とした。


「一万円全部貰っていいの?」


「いいって」


「でもお釣り五」


「いらないってば…!!もうさっさとどっか行けよ、鬱陶しいなぁ…!!」


お母さんは声を荒げてそう言うと、近くにあった枕を私の足元にぶつけた。



これももう慣れた。



交尾合戦直後のお母さんはいつも機嫌が悪い。


お金を得たにもかかわらず機嫌が悪くなるくせに、他の方法でお金を稼ごうとは思わないんだもんね。


本当に、どこまでもバカな人だ。


きっとお金を稼ぐ方法はこれしかないと思ってんだね。



「うん、ありがとう」


私はその煙たい部屋を出ると、自分の部屋に戻って戸を閉めた。




担任の先生が産休に入るのは別に嘘じゃない。


でも、集める金額は一人五千円ではない。


本当は千円。



四十人から千円ずつ集めると…四万円か…


委員長は先生に何買うんだろう。


ベビー服とか?おもちゃとか?


可愛いだろうな、赤ちゃんの服…




そんな呑気なことを考えながら、私はお母さんから貰った一万円を通学用の鞄にしまった。

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