第33話
「…言い残すことはあるかぁ?」
スキンヘッドの男の一段と低い声が聞こえるのと同時に、私の右手の指先からさっき渡された袋がスルッと抜け落ちて地面にそれがドサッと落ちた。
その袋を慌てて拾おうと前傾姿勢になった私の頭上から、「ある」と私を助けてくれた男の人の小さな声が聞こえた。
「———…お前さっきから口臭ぇよ」
そう聞こえた次の瞬間ゴッ!!と鈍い音がして、前屈みになっていた私は思わずそのまましゃがみ込んで目を瞑って両耳を塞いだ。
強く強く、目一杯力を入れて両手を耳に押し当てていたけれど、その向こうからは骨と骨がぶつかるような鈍い音が何度も聞こえた。
本気でやる気あったのか…!
どっちもすごむだけで中々手を出さないからてっきり見せかけだけなのかと思ってたし!!
流れで言えばその音を発しているのはスキンヘッドの男なのだろう。
これは最悪の展開だ。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさいっ…
さっき助けてくれた男の人に、私は頭の中で何度も何度も繰り返した。
さっきまで余裕があった私も、その生々しい音に両耳を押さえる両手は微かに震えていた。
このあと私はどうすればっ…
とっ、とりあえずあのスキンヘッドの男がどこかに行ったら救急車を呼んで私も付き添って、治療費とか入院費は全額私が負担して、…
いや待て、携帯使えないから救急車呼べん…
てかその前に、あのお兄さんが終われば次は私の番じゃない…?
私、本当にこれからあのスキンヘッドの男と———…
「———…おい、」
しばらくして割と優しめにそう声をかけられたと同時に、私の左の二の腕あたりが軽く叩かれた。
思わずビクッと肩を震わせてゆっくり目を開ければ、目の前にいたのはスキンヘッドの男ではなくさっき私を助けてくれた方の男の人だった。
「えっ、あ、そっち!?」
「何言ってんだよ、終わったぞ。てかお前逃げたかったんじゃなかったのかよ」
しゃがみ込んで依然両耳に手を当てていた私に対して、その人もまた、両膝に腕を乗せるようにして私の目の前にしゃがみ込んでいた。
「いやだって勝手に巻き込んでおいてあの状況で帰れるわけないですよ!!」
まぁいたところで私何もしてないけどっ…
「はぁ…まぁいいわ。とりあえずそれ返してくんねぇ?」
そう言ってその人が指を差したのは、しゃがみ込む私の足の下敷きになっていたさっきの袋だった。
「あっ、すいませんっ!」
私が慌てて立ち上がると、その人はすぐにその袋に手を伸ばしてまたさっきと同じように持ち手を広げ袋の中を覗いていた。
そんなその人から目線を上げると、数メートル離れたところにさっきのスキンヘッドの男が仰向けに伸びていた。
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