第32話
「そもそも私があなたにぶつかったのが悪かったんですよね!?はいはい、分かりましたよ、じゃあもうなんでも付き合いますから!大人の遊びもお詫びも、常識の範囲内でしたら構いませんって。だから早くその手を———…」
いつまで経っても聞く耳を持たないスキンヘッドの男に私が半ば投げやりになりながら勢いで言葉を発していると、胸ぐらを掴まれていた男の人はそれを遮るように「はぁっ、」と大きなため息を吐いた。
それに思わず話すのをやめた私だったけれど、それでもやっぱりその人が見ているのは目の前のスキンヘッドの男だけだった。
「…お前なぁ、仮にもこれから連れて帰ってイイコトしようと思ってる女の前でなに醜態晒してんだよ」
「……あ?」
「だせぇ、マジで死ね」
「…お前そろそろほんまにええ加減にしとけよ?」
私の声はなぜこの二人に聞こえないんだろうか。
私真横で喋ってますけど?
事の発端は私なはずですけど?
ここでも私は部外者ってか?
ったく、どいつもこいつも…
「おーい!二人とも私のこと忘れてませんかー?私ここにいますよー!無視はやめてくださーい?てか二人とも、ぶっちゃけ本気でやる気はないんでしょー?なら尚更やめましょうよ、一生終わらないんで」
「だからそれもお前だって言ってんだよ。何度も言わせんじゃねぇ、手ぇ離せや」
「……」
胸ぐらを掴むスキンヘッドの男は黙ったまま目を見開いてその人を見ていたけれど、その手は怒りからか少しだけ震えていた。
やっぱり私の声は届かないか…
やれやれだな。
「はぁ…じゃあもうこの際気が済むまでお見合い続けますー?」
反応がないのをいいことに、私には初めにあった緊張感や危機感はほとんど無くなっていた。
「私もう行っちゃいますよー?私いなくなったらとことん何やってんのか分かんなくなりませんー?」
「……」
「……」
「え?本当に行っちゃいますよ?いいんですか?」
私の一方的な言葉がやっと届いたのか、私を助けてくれた男の人はそれからすぐにこちらに顔を向けたかと思うと持っていた袋を私に差し出した。
「ちょっとこれ持っとけ」
「えっ、あっ、はいっ」
…あ、私がいること忘れてなかったんだ…
「あと目ぇ瞑って耳塞いでろ」
「あー…え?」
意味が分からず思わず固まった私だったけれど、その人は中途半端に少しだけ差し出していた私の右手の指先にスッと持っていた袋の持ち手を引っ掛けた。
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