第30話
「…いや全然」
「ほんなら何も関係ないからはよどっか行きやぁ」
スキンヘッドの男にそう言われてすぐに立ち去ってしまうのかと思った男だったけれど、意外にもその人はすぐにまたこちらに顔を向けた。
「…今なんて?」
え?
えっと…今のは私に———…
「せやから、」
「お前に聞いてねぇんだよ」
スキンヘッドの男の言葉を遮るように冷静にそう言ったその人は、一度そちらに向けていた顔をまたこちらへと向けた。
「……さっき、なんて?」
その瞬間スキンヘッドの男の「…なんや?」という低い声が聞こえて、私の心臓はまた一段と震え上がった。
スキンヘッドの男は怖い顔でその人を見ていたけれど、やっぱりその人は私を見つめたままだった。
彼は今私の答えを待っているんだろう。
「っ、助けてくださいっ!!」
もう一度、さっきよりもはっきりとその人の目を見てそう言った私に、その人はしっかりと私の方へ体を向けた。
「逃げたいっつうこと?」
スキンヘッドの男の視線や言葉を無視したまま私に続けてそう聞いたその男に、私は慌ててブンブンと首を縦に振った。
それを見たその人は、開いていた左手をスッとこちらに伸ばした。
えっ…
何をするのかとその手を目で追っていると、彼の左手はそのまま私の右手首を掴むスキンヘッドの男の左手をパンッと叩いてその手を離させた。
「ほら、さっさと逃げろよ」
「えっ、あっ、」
こんなあっさりと自由になるとは思っていなかった私は、もう逃げられるはずなのに状況がよく分からなくて一人で慌てていた。
そんな私と更に怖い顔をしていたスキンヘッドの男を気にすることなく、その人はまた路地裏の方へと歩き出した。
えっ、行くの…!?
「ちょいちょいちょい…!何してくれてるんや、お前」
スキンヘッドの男はすぐに私に背を向けるようにして、立ち去ろうとしたその人の肩を掴んでこちらに向かせるとその胸ぐらを勢いよく掴んで引き寄せた。
「は?」
「お前今俺に何したんや」
「離せ、こら」
「お前今誰に何したか分かっとるんか?」
「今俺はお前と遊んでる暇はねぇんだよ、このハゲ」
顔をこれ以上ないほどに近付けて言い合っている二人に、自分が助けてほしいと言った手前私はもう逃げることもできず一人でひたすら慌てていた。
ちょっ、これはヤバいっ…!
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