第11話

「……」


「俺が…なに?」


でもここまで来たら私はもう言うしかない。


私は絶対に悪くないはずなのに、どうしてこんなにも今の私には常に選択肢が少ないんだろう。



「…マコちゃん、私今年でもう二十六だよ?そりゃあ結婚とか子どもだって嫌でも考えるよ」


「……」


「子どもなんて欲しいと思ってすぐできる人ばかりじゃないんだしさ、それなら結婚したらすぐにでもってなるだろうし、妊娠したらしたですぐ仕事も辞めて、」


「……」


「それで無事に赤ちゃん産んで、その先の二人目とか考えるならやっぱりそれは早いに越したことはないだろうし、…」


「……」



あー…



私は今、何を言ってるんだろう。



話を聞くマコちゃんの顔を見ていたら、言った瞬間から今言ったこと全部を無かったことにしてしまいたいと思った私だったけれど、こんな時に限ってマコちゃんは口を挟まず黙っているから私はもう本当に引くに引けなくなってしまった。



「で、そこまで考えた時にやっぱりバイトの方が融通も利くだろうし、マコちゃんを心配させることも…ない、…のかな…って…」


「……」



いやほんと、


私何言ってんだ…?


私とマコちゃんの温度差がエグいんだが。



「……」


「……」


…今言ったことは嘘じゃない。


私は本気でそんなことを考えてバイトをしていた。


そう遠くない将来にマコちゃんとの結婚や妊娠があると本気で思っていたし、それなら私は身動きの取りやすいバイトがいいだろうとか、マコちゃんもそれを望んでいるだろうとか、…


土日に休み希望を出すのだって、今のうちしか味わえないマコちゃんとの二人だけの時間を大切にしておきたかったからだ。


でも…





本気で思っていたことなのに、マコちゃんの私を見る目はそんな私を一瞬でひどく後悔させた。




「…それ、全部一人で決めたことでしょ?」



急に惨めな気持ちになって思わず目線を落としていた私は、マコちゃんのその言葉に顔を上げた。


「…え、決めたって…?」


「俺頼んでないよ、そんな将来」



頭が、足元が、


一気にぐわんと揺れた気がした。



「結婚とか子どもとか、俺そんな話したことないでしょ」


さっきからベラベラと何言ってんだお前みたいな目で私を見つめるマコちゃんに、




“…私は部外者じゃないよ。当事者だよ”




ホノカのあの言葉が鮮明に蘇った。


すぐそこにホノカがいるみたいで、思わず私の肩は小さく震えた。



私、…


本気の本気で、部外者かもしれない…




「…俺はカヤの人生まで背負えないよ」



マコちゃんの言った“背負えない”が、“背負いたくない”に限りなく近いものだということはちゃんと私にも伝わった。



「私がっ…私がおかしいのっ…!?」


「……」


「だってさ、何度も言うけど私今年で二十六だよ!?マコちゃんと付き合ってもう六年だよ!?んで一緒に住み始めてもう四年だよ!?そりゃあ結婚だって何だって考えるに決まってんじゃんっ!!だって女にはタイムリミッ」


「だからそれはカヤが一人で決めたことでしょ。俺はそれを背負えないんだってば」



…マコちゃんはやっぱりずるい。

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