第38話
38
二人で散々戯れあったせいで朝食にはギリギリだった。昨日の教訓は生かされたから良かったようなものの、食堂のおばちゃん達は閉める寸前に滑り込んだ俺達に容赦ない迷惑の視線を送ってくれた。
和食の朝ごはんは二人の胃袋を満たして、部屋へ戻る。
日中は雨が降ったり止んだり…俺はパソコンをベッドに置いて映画を観る瑞季の横で少し伸びた髪を編んで見たりしてちょっかいをかけながら過ごした。
『コーヒー…飲む?』
「…うん、飲む」
『よし!じゃ、買ってくる。』
「ん…」
映画に夢中の瑞季は軽く相槌を打って画面に集中していた。
俺はそんな瑞季を見てクスッと微笑み部屋を出た。
外は薄暗くて、窓ガラスにタラタラと雨粒が当たっては流れた。
古い寮の廊下は湿度が上がって木の湿った臭いがする。
寮の出入り口に置いてある自販機に先客。
『あ…』
「あぁ〜孝也じゃん♡ジュース?」
松木だ。
くるんと毛先がカールしたプードルみたいな可愛い顔をして問いかけてくる。
『いや…コーヒー。』
「ふぅん…」
俺は横に立つ松木が気になりながらも自販機に金を入れた。
コーヒーのボタン目掛けて指先を延ばし掛けた時
バンッ…
松木の拳がサイダーのボタンに叩きつけられた。
俺はビックリして、ゆっくり松木に視線をやる。
ゴトンと音を立ててサイダーが受け取り口に姿を現した。
『おまえ…昨日から何やってんだよ』
「僕、意外とサイダー好きなんだよね。…覚えててよ。」
ニヤっと笑う松木。
俺は眉間に皺を寄せて吐き捨てた。
『おまえがサイダー好きだろうと嫌いだろうと俺には関係ない!』
「市川がいるから?」
俺は松木を睨みつけた。
「こっわ!そんな怒んないでよ…僕だって孝也の事すきになっちゃったんだもん…一人も二人も一緒でしょ?相手…してよ」
俺は溜息を吐き捨てる。
『一人と二人は全然違う。俺にはアイツしか居ないし、アイツにも俺しか居ない。おまえさ…』
「笑わせてくれんね?そういうの流行んないよ?一時、気持ちが通じて昂ってるだけじゃん!……すぐ飽きるんだよ、そんなもん」
松木はグイッと俺の腕を引いて唇を塞いで来た。
『んっ!!んぅゔぅっ!っぷは!!おまえなぁっ!!』
「アハハッ!孝也真っ赤じゃん!フフ…暫くしたらアイツに飽きて、すぐ僕ともヤッて見たくなるよ。…そんな運命みたいなもんは端から無いんだから。」
俺は松木の言葉にまた違和感を感じていた。
なんていうか…本心じゃない。
心に穴が空いてるような…
ただの強がり…
『バーカ…運命はあんだよ。』
ゴシッと唇を拭ってサイダーを取り出した。
それから松木にソレを突き出して
『サイダー、好きなんだろ?やるよ』
そう言うと、松木は唇をきゅっと噛んで視線を逸らした。
「…ない…」
『え?何?』
「そんなの……いらないっ!!バーカッ!」
松木が走り去って行く。
やっぱり変だ。
アイツは俺を好きなわけじゃ無い。
多分だけど…絶対そうだ。
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