第35話

35



部屋に帰って、瑞季はシャワーに出た。

俺はさっきの松木の行動が気に掛かっていたせいか、後で行くと伝え部屋に残った。


一体アイツ…なんだったんだ?


コンコン


『瑞季?』

随分早いな…

俺が扉に目を向けると、ゆっくり開いた向こう側に松木が立っていた。

首をコテンと傾げてニッコリ笑顔をみせる。

俺はビックリして目をパチクリさせた。

「入ってもいい?さっき…市川出てくの見えたから」

瑞季が出て行ったから入っていいとかいうわけじゃないだろう…。

何の用なんだ…。

『あぁ…まぁ…入れば?おまえ…二組だよな?』

「わぁ♡知ってくれてんだ!」

『おまえ目立ってるからな…クラスの奴が騒いでたよ。それで、覚えてるだけだ』

松木はベッドに座る俺の横にちょこんと座った。

タッパはあるけど、線が細い。襟元が開いたTシャツのせいか鎖骨が綺麗に見えた。

「孝也くん…すげぇ…カッコイイよね。僕さぁ…」

首を伸ばして俺を覗き込むように距離を詰めてくる。

俺はベッドに後ろ手を突いて少し仰け反った。


ガチャ

扉が開いて、シャワーが終わった瑞季が扉のノブを握ったまま固まっている。

「何…してんだよ」

「ざぁ〜んねん。じゃ、またね、孝也くん…」

松木がベッドから立ち上がって開いた扉の側で立ち尽くす瑞季に近づくと顔を寄せた。

「ふぅん…綺麗な顔してんね。…バイバイ孝也」

それから俺に振り返ってあんまりにセクシーなウインクを残し出ていった。


しかも、たっ孝也って!さっきまでちゃんと君、付けてただろ!

しかも残念って!!

変な誤解されかねないような事言ってんじゃねぇよ!!


嵐のように去っていった松木。

取り残された俺たち。

バタンッ!!と瑞季が凄い勢いで扉を閉めた。


ポタ ポタ


フローリングを打つ瑞季の髪から滴る水滴の音が響く。


ベッドから立ち上がって瑞季の前。

両手に握ってるバスタオルに手を伸ばした。

『瑞季、髪、拭こう…風邪ひくから』


パシッ!

手の平がはたかれる。

ギラッと睨みつけられて

「触んなっ!」

ピシャリと拒絶の言葉が刺さる。

『瑞季?』

「男がイケる口になったら早速他をご所望とはな。」

『おいっ!誤解だっ!俺は何もっ!』

「大丈夫、た.か.や.くん…大丈夫」

瑞季はそう呟いてバスタオルを被ってゴシゴシ髪を拭き始めた。

『瑞季…何が大丈夫なんだよ…』

髪を拭く手をピタリと止めた瑞季が頭にスッポリ被ったバスタオルの隙間から瞳を覗かせた。

「…俺は一人で大丈夫だっつったんだよ」

『ハァ?!おまえっ』

乱暴に両肩を掴んで正面を向かせる。

バサっと床にバスタオルが落ちると、俯いていた瑞季がキッと顔を上げた。

白い頰にキラキラ光る涙が筋を作って流れ落ちて行く。

『変な誤解しないでくれよっ!!』

力強く引き寄せて華奢な体を胸に抱いた。

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