第34話
34
二人で一枚のシーツに包まりながら、一本の煙草を分け合って、瑞季は泣き出した俺を宥める。
「俺さ、孝也の家すげぇ…羨ましかった。孝也の母さん、怒ったら超こえーけど、いっつも元気だし、笑ってるし…婆ちゃんも優しいし…姉ちゃんも口悪いけど…俺、大好き。でも…俺は…気づいたら孝也が一番好きだった。友達だからかなぁって思ったけど…どんどん苦しくなって…孝也の特別になりたいって…」
俺は瑞季の頭を引き寄せ、肩に寝かせた。煙草を細い指先に渡す。
『…ちゃんと俺の特別だよ。だから、ちゃんと、笑っていいんだ』
瑞季はゆっくり俺を見上げた。
「ちゃんと?」
『良いんだ…独り言』
「んだよ…でっけぇ独り言だなぁ…」
瑞季は俺の言いたい事が分かったのか分からないフリをした。
俺はそれで良いと、肩を竦め額にキスをして呟いた。
『…飯行くか…』
土曜の夜、食堂はいつもなんかより人がまばらでガランとしている。
みんな食べる時間がバラバラだったり、外出外泊が増えるからだ。
長机が並ぶ食堂。
俺と瑞季は向かい合わせに座り、メニューの唐揚げを食べた。
味噌汁に浮かんだ豆腐を口に入れて顔を上げると、瑞季の背中側でこっちを向いて食事をとる男がジッと俺を見つめていた。
確か…二組の奴だよな。顔が綺麗でクラスの一部が騒いでた。
え〜っと…なんだっけな…そこまで出かかってるのにな…ぁあっ!松木潤(マツキジュン)だ!ハァ〜スッキリした。
「おい、孝也…おまえさっきから何一人で百面相してんだよ…気持ち悪りぃな…」
瑞季の冷たい言葉に肩を竦め唐揚げを一口で口に放り込んだ。
モグモグ噛み砕いてゴックンと喉を鳴らしてから
『別に…唐揚げうっまぁって思ってるだけだ』
「ふぅん…」
瑞季が味噌汁を啜って俯いた瞬間にもう一度松木の方を見た。
バッチリ目が合って…ウインクされる。
一瞬ドキッとしてフイと視線を外した。
何なんだ…。
松木の前には連れらしき男が座っている。しきりに何か喋りながら松木の気を引こうと必死になっているのが分かった。
「孝也?…何か顔赤い…」
『え?!そっそんな事ねぇよ。唐揚げ熱かったからじゃね?』
向かいに座る瑞季はまるで猫のようにジッと下から俺を見上げた。
『な…何だよ』
「いや…別に…腹一杯。シャワー行きたい。身体から孝也の出したヤツがプンプンする」
『ばっ!バカ!プンプンしねぇわ!』
「するもん…中から出てくる」
俺は瑞季のあんな顔やそんな体勢を思い出しグッと口をつぐんだ。
『戻ったらシャワー行くぞ。出よう』
俺は真っ赤になりながら立ち上がった。
瑞季のトレーも一緒に持ち上げて返却口に運ぶ。
たまたま松木の隣りを通った。
瑞季は俺の前を歩いていて…後ろの俺は見えて居ない。
松木も立ち上がって後ろからついて来た。
スッと距離が縮まった気がして振り返ると掠めるように唇が触れた。
カランカランッと手にしたトレーが傾いてプラスチックの皿が床を鳴らした。俺は慌てて屈みながらトレーに皿を戻す。
「大丈夫か?」
瑞季が振り返る。
「ごめん、ごめん…僕が孝也くんの足につまずいちゃった…大丈夫?孝也くん」
ニヤリと笑って、松木が俺の腕に手を掛けた。
二人屈んだ状態で向き合う。
『だっ!大丈夫』
サッと手を払って立ち上がった。
近くで見ると、瑞季とは全く違ったオリエンタルな色気に焦ってしまう。
『行こう、瑞季』
俺は瑞季の腰に手を掛けて食堂を後にした。途中唇を撫でてチラッと振り返ると、松木は俺を見て自分の唇を指先で撫で、やっぱりニヤリと意味深に笑った。
さっき…アイツ俺にキスしたよな…
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます