第15話

15



朝、瑞季はいつもと変わらず俺のベッドで目覚めた事に何の不思議も感じないように起き上がり制服に着替えた。

寝間着を脱いでカッターシャツを着る背中の傷を一瞥してから、床に落とした視線に溜息が落ちた。

「孝也……昨日さ」

俺はビクッと肩が飛び上がった。

まだシャツのボタンを留めきらない俺の前に来て、下から順にボタンを留めてくれる。首に回し掛けていた臙脂色のネクタイを瑞季が前で合わす。

昨日の夜…瑞季に対してやましい事をした俺は緊張していた。

瑞季がネクタイを結びやすいように顎をソッと上げる。

『……ん』

シュ シュ シュル…

慣れた手つきで俺のネクタイを結んで、ジッと見つめてくる。


バレてしまっただろうか…

昨日…あんなに息を殺して…唇に触れた事を。

俺はゴクッと喉を鳴らす。

「…何緊張してんだよ…昨日、パンだったからさ…今日は米かなぁ」

俺の首にダランと腕を絡めて体重をかけてくる瑞季は何でもない事を口にした。俺は思わず緊張していた理由とは掛け離れた内容に間の抜けた声が出てしまった。

『…へ?』

「は?」

訝しむ表情の瑞季に慌てた。

『あぁ…確か、入り口のホワイトボードにプリント貼ってあったよな!おっ俺見てくる!!』

瑞季の腕を掴んで下すと、慌てて部屋を出た。

「えっ?!ちょっ!孝也っ!」


バタン!


バタバタと廊下を走った。

手の甲で口を押さえつけながら走った。

『ハァッハァッハァッ…くっそ!…何…何やってんだ俺はっ!!』

寮の入り口のホワイトボードに手をついて息を整えた。


違う!

こんなの幼馴染みじゃない!

こんなの親友じゃない!

こんなっ!!

こんな…


ドンッ!

拳で壁を殴ってから、深呼吸した。


プリントには朝ご飯のメニューが…


鮭と…焼き海苔…味噌汁…あぁ…米だ。

瑞季…喜ぶかな…。


俺は一気に脱力して項垂れた。

一番奥の部屋へ向かう足取りは重く、拾い切れない溜息ばかりが


こぼれ落ちた。

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