第13話

13


相葉が部屋を出て行ったのを確認して、俺は瑞季の肩を掴んだ。

『…いいか?よく聞けよ…何年か前の先輩が…この学校でレイプされた事件がある。…アイツら…おまえをそういう目で見てる。隣りの二宮だってそうだよ…色白で…中性的な雰囲気だし…狙われても仕方ないっつーか…』

「孝也も二宮の事、綺麗だとかおもっちゃうわけだ?」

瑞季がジッと俺を見つめる。

俺は目が合わせてられなくなって肩を掴んでいた手を離して視線を逸らした。

『はぁ?なんだそりゃ、そんなんじゃねぇけど』

「じゃあっ!!…どんなだよ…」

『瑞季…』

「おまえは俺一人フォローすんので手一杯だろ!…安請け合いしてんじゃねぇよ」

『俺が居ない時におまえに何かあったら困るだろ!こっちだって人手があった方が』

「孝也だけでいい!」

『瑞季っ』

「孝也だけでいいっ!」

俺はハァ…と溜息をついた。


「何だよ…困った顔なんかして…孝也は二宮も助けたいもんな!俺だけに構ってらんねぇわな!」

瑞季は立ち上がって部屋を出ようとする。

その手を掴んで呼び止めた。

『待てよっ!一人になんなっつっただろ!』

「っせぇな!!自販機っ!!離せっ!バカ!」

俺の手を振り払って部屋を出て行ってしまった。


何でそんな二宮に拘るんだ…

俺は瑞季が大事だから…瑞季を守りたいから相葉の話に賛成しただけなのに…。


自販機は寮の入り口近くにあった。

一年の寮だから、この辺りは大丈夫だろう…。


最近…瑞季は情緒が不安定だ。

いつになく…泣きそうな顔ばかりする。


ガチャッと音がして瑞季が戻ってきた。

手に缶コーヒーが2本。

「やる…」

ベッドに座る俺にそっと差し出して隣に座り込んだ。

『サンキュ…』

「ん…」

プルタブを開ける瑞季を見つめる。

「何だよ」

『あ、いや…おまえやっぱ目立つなぁと思ってさ』

「見んな…減る」

缶コーヒーをグイッと煽る瑞季。

『ハハ、バーカ、減んねぇだろ!でも…おまえはさ……その、綺麗だよ…俺が言うのも変だけどさ…禁欲生活の長い先輩達からしたら…良いカモなんだ…きっと。だから…俺が…ちゃんと守るから』

パッと瑞季に目をやると、顔を真っ赤にしている、

『何赤くなってんだよ。』

「るっるせぇっ!なってねぇし!」

『いや!なってる!』

「じゃあっ!!二宮より俺を優先すんのかよ!」

瑞季の言葉に一瞬戸惑ったけど、俺は頷いた。

『そりゃ、同時にそんな事になったら、俺とおまえの仲だぞ?おまえを優先するに決まってんだろ…』

「ふぅん……そ…」


『そ、そうだよ…あ、映画…続きみねぇの?』

俺は空気を変える為、話題を変えた。

話が話なだけあって、優先だとか、守るだとか…何だか照れくさい。

もっと、守ってなんか欲しく無いって怒るかと思ったのに…

あんな目で俺を見るんだ…戸惑わないわけがなかった。

「ん…なんかもういいや…ちょっと寝る」

瑞季は俺のベッドで丸くなった。


瑞季が瑞季じゃなくなっていく…

俺は正直、困惑していた。

一緒に風呂に入っても、一緒の布団に入っても、俺をどんなに見つめてきても…


今までこんなにドキドキしなかった。

瑞季が他人から性の対象に見られる事がこんなに腹立たしいなんて知らなかった。

まだ…始まったばかりの寮生活なのに…


俺、どうしたっていうんだよ…

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