第35話

私は呆れるようにわざとらしく「はぁっ、」と息を吐くと、またすぐに正面へと顔を向けた。



「なんだよ、文句あんなら言えよ。生意気な一年だな」



生意気だと思うなら文句を要求すんなよ。


私がそれを言ったところでさらに生意気だなって思うだけじゃんか。



「言え!!」



その催促もよく分かんないし…



「はぁ……“飛ぶ”はさすがにおかしいよ」


「なんでだよ」


「だって“飛び降り”って言うじゃん」


「それなら“降りる”が正解か?」


「いやそれも違う」


「うん、だから“飛ぶ”だよな」


それで話はまとまったと言わんばかりに、その人は一人で「うんうん、よしよし」と小さく呟いた。




だから“落ちる”だって言ってんのに…



“飛ぶ”なんて、そんな綺麗なもんじゃないでしょ…






「んで?行かねぇの?」


…あ、そっか。


私そういうことになってるんだった。



「どうぞ?行けよ」


「……あの…今更で非常に言いにくいんですが、」



なんで死なないことをちょっと申し訳なく思わなきゃならないんだか…


そっちが勝手に勘違いしただけなのに。



「あー、でもあんま勢い余って飛び出し過ぎんなよ?真下に落ちなきゃワンチャン花壇の上に落ちて助かっちまうぞ」


そう言われてまた真下を見下ろせば、数メートル先には花壇があった。



あ、本当だ。


たしかにそうだな…いやでもやっぱりこの高さならそれが土だろうと助かる可能性って限りなくゼロなんじゃ…





…っていやいやいや、



「違う、違う。あのね、」


「なんだお前、怖くなったか」


「だから違うんだって。ちょっとは人の話聞」


「んなら一緒に飛ぶか!!!!」


「っ、えっ!?」


その男は楽しそうにそう言うと、驚く私を気にすることなく勢いよく私の左手首を掴んで少しだけ自分の方に引き寄せた。



「ちょっ、」


「俺もちょうど死にたいと思ってたとこだし!!!!」



男のこれまた軽すぎるその言葉に、慌てていた私は思わずそのまま固まった。








「……え、」

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